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異世界でバーを開いたら魔王が入り浸っているんだが  作者: 楢館祥人


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9-1 異世界でバーを開いたら魔王が入り浸っているんだが

調書を取り終えた後、シュウは再び牢屋へ戻された。重い鉄格子の扉が軋む音を立てて閉まると、辺りは深い沈黙に包まれた。かつて自由に歩き回ることができた空間が、今ではひんやりと冷たい壁と鉄格子に囲まれた、逃げ場のない世界に変わっていた。


同じ位置に座り、膝を抱えて床に体を沈める。まだやり方があったのではないか、という思いが脳裏にちらつく。だが、友を裏切らなかったことに後悔はなかった。その思いだけが、今の自分の心をわずかに安定させていた。


牢屋の小窓から差し込む月光は、青白く、あまりにもまぶしいほどに輝いていた。まるで外の世界が自分を遠くから見下ろしているかのようだ。月の光は、冷たくも温かくもある、不思議な存在感でシュウの顔を照らした。その光の中で、心の奥底の孤独や不安が際立つ。


「このままだと、死刑になるぞ。」


聴取官にそう告げられたが、まるで実感が湧かなかった。この世界に転生してきたことは、本来のこの世界の人間には伝わらなかった。何度説明しても、信じてもらうことは叶わなかった。自分は真にこの世界の住人ではない。すでに死んでいる身なのか。また何かのきっかけで、また違った世界に飛ばされてしまうのか。いや、今度は死ぬのだから、転生になるのかもしれない。心の中で何度も繰り返す問いに向き合うことになり、それが一番堪えた。ただ、目の前の現実がぼやけ、足が地面についていないかのような浮遊感が全身を覆った。


一方、サルマたちはシュウを救うために奔走していた。まだ太陽が天高く昇る昼下がり、小さな店の中で、皆で集まって作戦会議を開いていた。いつも夜にしか来ないお店の中は、どこか別世界のようで、張りつめた空気が重くのしかかっていた。


サルマは眉をひそめ、手元の書類に目を落とす。


「これ……ピトの手紙で間違いないよな?」


その声は小さいが、焦りと疑念がはっきりと滲んでいた。


「うん、そうだと思う。」


手紙が見つかったとき、全員の表情に一瞬だけ希望が差した。しかし読み進めるほど、それが別れを告げる内容だと分かり、重苦しさだけが残った。


「一体何がどうしたんだ。 何が起きてる?」


ゾーは頭がこんがらがって、考えることもできなくなっていた。ノルムはサルマに再度問いただす。


「もう一度聞かせて。昨日の夜、その騎士団長はなんて言ってマスターを連れて行ったの?」

「いや、レオンの話をしていて…。酒を出さなかったから、どうとか。」


下からサルマをのぞき込むようにして、ゾーが聞き返す。


「酒…?」

「ああ。あの時出したお酒は、ラスティ・ネイルじゃなかったのか、って確認していた。」


ノルムが割って入る。

「なにそれ。意味わかんないね。」

「だろ?連れていかれる理由が、まったく分からない。」


黙り込む3人。


ピトの手紙を見つめながら、ノルムが言う。

「やっぱり、あの二人を探そうよ。この手紙のことも、マスターが連れていかれたことも、無関係じゃないはず。」


ゾーはノルムを見上げて意見する。

「それよりも、アルケインにシュウが何の容疑で連れていかれたのか、確認が先じゃないか?」


サルマは二人を順番にみて、提案する。

「…同時にやろう。二人は、レオンたちの情報を集めてくれ。俺は、団長に話を聞きに行ってくる。」


二人は頷き、外に出る準備を始める。


「私、ゴロさんのところにも、何か知らないか聞きに行ってくる。」

「頼む。そうしてくれ。」

サルマは、店の扉の鍵を閉め、二人とは別の方向に向けて走り出した。



サルマがアルケイン本部にたどり着くと、門に立っていた騎士団員に行く手を遮られた。

「そこの者、待て。」


サルマは、団長に直談判しようと、必死に声をかける。

「クローヴェル団長に会わせてくれ。」

「団長は今取り込み中だ。しばらくしてから出直せ。」

「今じゃなきゃダメなんだ! どうしても話をしたいんだよ!」


必死の訴えも届かず、騎士団員は頑として門を開けない。

「勝手なことを言うな! あまり騒ぎを起こすと、拘束するぞ。」

「ああ!それでもいい! とにかく中に入れてくれよ!」


サルマが強引に押し通ろうとしたその時、運よくクローヴェルが建物の中から姿を見せた。

「……何の騒ぎだ?」

「クローヴェル!」


「君か…。 入れ。」

団長の命を受け、閉ざされていた門がゆっくりと開き、サルマは中へと案内された。


後ろからついて歩きながら、サルマは落ち着かない様子で周囲を見渡す。アルケイン本部に足を踏み入れるのはこれが初めてで、シュウがどこに連れて行かれたのか、まるで見当がつかなかった。


やがて執務室へと辿り着き、中に入ると、椅子に座るよう静かに促された。


サルマはためらいなく口を開く。

「シュウは悪くない。どうか、…解放してやってくれ。」


クローヴェルは、やはりその話かと言わんばかりに静かに息を吐き、サルマをまっすぐ見つめた。

「……無理だ。 あのご主人には、”魔族をかくまっていた”疑いがかかっている。」

「魔族? なんだよ、それ。」


「人間に姿を変えられる魔族がいてな。そいつがこの国に入り込んでいる可能性が高い。おそらく、その魔族は”レオン”という人物になりすましていると見ている。」


「……レオンが、魔族だって言うのか?」

サルマは困惑しながら問い返す。


「どうして、そんな話になるんだ?」

クローヴェルは、ハチミツを口にすれば、人に化けた魔族の正体を見抜けることを説明した。そして、シュウが自分の目の前で、レオンに出すはずだったハチミツ入りの酒を別の飲み物にすり替えたこと。さらに、その事実をシュウ自身が認めたことも明かした。


サルマは話の意味をつかめず、口を半ば開いたままクローヴェルを見つめた。

「そんな、シュウが? それに、レオンが魔族だなんて……信じられない。」


クローヴェルは淡々と続ける。

「ご主人に関しては、生まれも育ちも不明だ。どこの誰なのか、私たちにも一切分からない。魔族である可能性も、完全には否定できん。」


サルマは、言葉を失ってしまった。衝撃的な事実を聞かされても、胸の奥で”直接聞かなければ納得できない”という思いが渦巻いていた。


「……シュウと話せないのか? 自分の耳で確かめたいんだ。」

「すまないが、会わせるわけにはいかない。分かってくれ。」


サルマが俯くと、クローヴェルは容赦なく言い放つ。

「さぁ、もう帰ってくれ。今日も忙しいんだ。」


サルマは、声を振り絞った。

「待ってくれ! シュウは、このあとどうなるんだ?」


クローヴェルは短く息を吸い、重く告げる。


「……魔族をこの国に引き入れたとなれば…死刑だ。」

「っ……!!」


サルマが思わず立ち上がると、クローヴェルは鋭い視線で一喝する。


「やめておけ。 下手に動けば、ただでは済まん。」


その眼差しだけで、サルマの考えていた”力づくで助け出す”という思惑は見抜かれていた。サルマは悔しさを噛みしめながら、動けずに立ち尽くす。


「……刑が下るのは、いつだ!?」

「……何をする気だ?」

「レオンをここに連れてくる! それまで処分を待ってくれ!」

「そいつを連れてきたところで、ご主人が魔族をかくまっていた事実は変わらんぞ。」

「かくまっていたんじゃない! 絶対に……何か別の理由があるはずなんだ!」


クローヴェルは黙ったまま、サルマの必死の言葉をじっと受け止めていた。


「頼む! 時間をくれ! レオンを連れてきて、真実を確かめたいんだ!」

「一週間やる。それ以上は延ばせない。」


クローヴェルが短く言い渡すと、サルマの表情に一気に光が差した。


「ありがとう!!」


そう言い残し、サルマは勢いよく執務室を飛び出していった。

扉が大きく開いた反動が収まるより早く、横からひとりの聴取官が姿を現す。


「失礼します。」

「今度は何だ?」


聴取官は、シュウの供述調書をクローヴェルに差し出した。

書類に目を落としたクローヴェルは、”身元不明”と記された欄に目をとめ、そこを指で叩く。


「…どうしても分からないのか?」

「ええ、現時点では。」

「魔族の可能性は?」

「判断しかねます。」


クローヴェルは、淡々と報告を聞き続けた。


「本人は、”自分は転生者で、別の世界から来た人間だ”と主張しています。」


その言葉に、クローヴェルは資料から視線を離し、部下に指示を飛ばす。


「レオンという男を探せ。何か知っているはずだ。それから、さっき出ていった男も追え。」


数名の団員が素早く敬礼し、足早に部屋を出て行った。その背中を見送りながら、聴取官が確認をとる。


「……それで、ご判断は?」

「法に従うしかない。魔族を国に引き入れたことは、本人も認めているんだろう?」


聴取官は無言で頷くと、供述調書を丁寧に受け取った。


「一週間後、王国裁判にかけろ。それまでに、まだ他に聞き出せることがないか探れ。」

静かに告げられたその言葉が、執務室の空気をいっそう重く沈ませた。


クローヴェルは、誰もいなくなった執務室の空気を入れ替えようと窓を開ける。新鮮な風が吹き込み、張りつめていた気分がわずかに和らぐ。


そのとき、窓の外のバルコニーに、黒い仮面と黒装束に身を包んだ人影が、どこからともなく突然現れた。――灰幕の影団<アッシュヴェイル>だ。


「すぐにでも、あの人間を処刑しろ。一週間など待てない。」

「なぜだ? なぜお前たちが動く?」

「王の命だ。分かったな?」


黒装束の影は、必要な言葉だけを残し、霧がほどけるようにふっと姿を消した。

クローヴェルは、せっかく落ち着きかけていた気分をまた乱され、深々とため息をついた。

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