1-3 深夜の来訪者
グラスに大きめの氷を2~3個入れてバースプーンで素早くかき混ぜ、グラス全体の温度を下げていく。溶けだした水を捨て、オールドパーとドランブイをメジャーカップを使って手際よく注ぎ入れると、美しくステアした。
「どうぞ。ラスティ・ネイルです」
カウンター越しに差し出されたのは、スコッチのスタンダードカクテル――。
ビターな風味とハーブや蜂蜜の甘さが絶妙に調和した、食後酒や寝酒に合う一杯。
グラスを持ち上げた瞬間、男の手がわずかに光を反射した。
指に巻かれた金属――装飾の細工が異様に精緻な、見慣れぬ指輪だった。カウンターの落ち着いた灯りに照らされて、魔性を帯びた光を放っていた。
「ほう……これは美しい。透き通った黄金の輝きをしているぞ。うむ。とても華やかな良い香りだ。素晴らしい。」
男は非常に興奮した様子で、お酒を見た目から楽しんでいる。
シュウはずいぶんと変な奴が来たと思いながら、少し嬉しくなり口元が緩んだ。
ようやく一口含んだ男が、ゆっくりと息を吐く。
子どもっぽい印象のあった男の所作には、どうしてか何百年も生きてきた者のような妙な落ち着きがあった。
――ガシャン。
突然、男の顔面がカウンターに向かって倒れた。驚いて振り向いたシュウは、気絶したかのように座った姿勢のまま突っ伏している男に駆け寄った。
「え…?お客さんっ!?大丈夫ですか?」
(一口だけだよな?お酒めちゃくちゃ弱かったのか?)
シュウはカウンターの中から慌てて出てきて、潰れた男に近寄り、その広い肩に手を伸ばした。
触れるか触れないかのところで、バチッと雷が走り、シュウは強い電気を受けたような衝撃を受け、伸ばした手は空へと強く弾かれた。
ハッキリと見えた雷は、今日入荷したばかりでカウンターに置いたままにしてあったビンテージボトルを勢いよく割り、中身をそこら中にぶちまけた。
「ああっ!!」
シュウはギョッとして叫び、割れてしまったビンと無惨に滴り落ちるお酒の中身を呆然と見てしまった。
一瞬、何が起きたのか分からなかった。
(ビンテージが!割れてしまった!とても高価なものだったのに!…それより、雷が出た。雷だったか?衝撃が走った。魔法か?魔法であればこの世界では魔族しか使えないはず…)
シュウはダスターを取り出し、カウンターに撒かれたお酒を拭きながら、潰れた男に酒がかかっていないかと心配する。
「ごめんなさい、お客さん。濡れませんでしたか?ガラスとかも、飛びちってません…か?」
男に目をやると、突っ伏した男の耳のまわりを、ぼんやりと蛍のような光が舞っている。
シュウはその光景に少しうろたえたが、よく目を凝らしてみると、光の中に小さな少女の姿があった。加えて背中には羽が生えている。
「ザクレト様!起きてください!一体どうなさったんですか!?」
「…妖精…?」
「!!」
小さな少女は、シュウのつぶやきに驚いてすごい速さで振り向いた。
「あ、あ、あわわわわ……。み、見なかったことにしてください!!」
泣き顔を見せる羽根の生えた妖精を見ながら頭が混乱し始めるシュウ。
完全に場が凍りついた。




