表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界でバーを開いたら魔王が入り浸っているんだが  作者: 楢館祥人


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

24/37

6-4 バーときどきお悩み相談室

シュウは深呼吸をひとつし、カウンターに残ったグラスを丁寧に磨きながら、落ち着きを取り戻していた。

男に会計伝票を突き付けた時の言葉が、まだ耳の奥で反響している。


「それにしても、マスターすごかったね!」


フォルンが励ますようにシュウの対応を讃える。


「ここは疲れた体と心を癒すための空間ですから。」


シュウには、プライドを持ってバーテンダーのマスターをやっている自負がある。

ノルムは優しく微笑みながらシュウの顔を覗き込む。

ピトは、そのやりとりを見てから、にやりと笑ってノルムに振り返り、話題を戻す。


「ねえ、ノルム、そろそろ恋バナの続きを聞かせてくれない?」


ノルムは慌てて顔を赤らめるが、すぐに話題をそらした。


「もういいじゃん! そ、そんなことより、聞いた? 王国騎士団が遠征から帰ってくるらしいわよ。」

「そうなの?」


王国騎士団は、セレナスを守護する三つの団体のひとつだ。


「今までどこに行ってたんだ?」

シュウは二人の会話に何気なく割って入った。


「きっと、いつも通り北国に行ってたんでしょ。」

フォルンはノルムの横顔を見ながら、話を広げていく。


「国の名前、モルベインだっけ…。魔族との戦争が絶えない国って聞いたことある。」

それを聞いて、シュウはフォルンの方へ視線を向けた。


「遠征って、そんなに頻繁にあるのか?」

「そうよ。船で渡るんだから。人もお金もかかって、大変よね。」


ピトは発言する人の顔を交互に見ながら、静かに話を聞いていた。

「ふーん、そうなんだ。(最近、ザクレト様が忙しかったのと関係あるのかな…?)」


すると、ピトは突然ドアの方に視線を向けて固まった。

それに続いてドアを見てしまう三人。


カラン――。

ドアが開き、雨で冷え切った外の空気と共に姿を現したのは、レオンだった。


「ピト、ここにいるか?」


その声は、少し緊張を含んでいた。ピトは思わず宙に飛び上がる。


「すまない。 …本当に、申し訳なかった。」


ピトは少し戸惑いながらも、レオンの言葉に耳を傾ける。


「どうしてここに…?」


ピトはそっと尋ねた。


「ピトが、飛び出して行って…帰ってこなかっ…たから。心配して…探しに来たんだ。」

「別に、探してなんて、頼んでいません! それに、笛のことだって、許すつもりもありません!」


ピトは、熱くなってレオンに強く当たる。


「…笛のことも、本当に申し訳なかった…。」

「…どうして…。どうしてあんなことしたんですか!?」

「…。」


レオンは黙っている。すると、ノルムとフォルンをちらりと見て、話しづらそうな表情を浮かべた。シュウはそれを見てすぐに察し、二人に席を外すよう促した。


「ここは、二人にしてあげよう。 レオン、俺たちは外で待ってるよ。」


そう言うと三人分のコートを両手に大きく抱えてレオンとフォルンと一緒に外へ出る。


「すまない…。」


レオンの声は低く、申し訳なさで震えている。

シュウはレオンの肩をポンポンと軽くたたいて、そのまま静かに寒空の下へと出ていった。


ザクレトとピトの二人きりになった店内。バーテンダーのシュウがいないだけで、まるで別の場所のようだった。それでも店内を包む温かな灯りは変わらず、ほどよい明るさが二人の胸のわだかまりをやわらかく溶かしていくようだった。

ピトに向き合ったザクレトはポケットから小さな箱をゆっくりと取り出した。箱の中には、光を淡く反射する銀の笛が収められていた。


「この笛を、お主に。」


ザクレトは言う。


「ワシの魔力を笛に還元し、旋律によって姿を隠すことができるようにした。最初は魔力のコントロールがうまく効かず、力を入れすぎて笛の形を崩してしまったが、修理改善した。」


ピトは目を丸くして、その笛を受け取る。小さな手にしっくり収まる銀の輝きが、ふわりと魔力の光を帯びている。


「自分を身を守るために、使って欲しい。」

ザクレトの声は真剣そのものだった。


「そう…だったんですか。」


ピトは笛からザクレトに視線を移し、静かに言った。

「……最初から、正直に言ってくれればよかったのに。」


ばつが悪そうに、ザクレトは目を逸らしてつぶやく。

「なんとなく、日ごろの御礼がしたくて……驚かせたかったんだ。」


ピトの頬に、嬉しさと安堵が同時に広がる。

「ありがとう……ございます。ザクレト様。」


外ではフォルンがくしゃみをした。シュウはそれを見て静かに立ち上がり、ドアに顔を近づけて中の様子をうかがう。そして、確かめるように小さくノックをした。

ノックの音を聞いて、レオンはゆっくりとドアを開けた。少しだけ開いた隙間から顔を覗かせると、シュウと目が合う。


「仲直りできたか?」

「ああ。」


安心しきった笑顔を浮かべながら、ドアを大きく開くザクレト。


「あー、外は寒いね!」

「ったく、はやく入れてよ~!」


フォルンとノルムは、シュウとザクレトを追い越して店内へなだれ込む。


「マスター、何かあったかいのちょうだい! さっきのヴァンショー!」


ノルムの早速の注文に、シュウは笑みを浮かべながらカウンターの中へに入っていった。

フォルンは、ピトのそばに寄り、こっそり耳打ちする。


「仲直り、できた?」


ピトがニコッと笑うのを見て、フォルンはほっと息をついた。


「さあ、仲直りの一杯を一緒にどうぞ。」

そういうと、先ほどのヴァンショーをみんなに差し出す。


「んっ、さっきとちょっと違う?」

フォルンが楽しげに言うと、シュウは笑みを浮かべて言った。


「さっきとは少し違うレシピにしてみたんだ。」


ザクレトにはハチミツが使えないし、ピトはアルコールが飲めない。


「あ~、あったまる~!」

「うまい!これは何というお酒なのだ?」

「ヴァンショーっていうんだ。みんなが飲めるように少しアレンジしてあるけど。」


店の中には、いつもの穏やかな空気が戻っていた。ピトは笛をそっと胸に抱いたまま、その光景を見つめて幸せそうに微笑む。


「…ありがとう。」


その小さな声は、みんなには聞こえなかったが、確かに温もりを帯びていた。

外の雨音はもう消え、冷えた外の空気とは対照的に、店内には柔らかな温もりが満ちている。グラスの中の液体は、まるで友情と和解、そしてほんの少しの勇気を映し出しているようだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ