1-2 深夜の来訪者
サルマが残していった最後のグラスを取り上げ、カウンターを拭き始めたその時、ドアベルがちりんと鳴った。
驚いて振り向くと、そこに背の高い男が立っていた。
厚手の黒いコートに、深く被ったフード。派手な装飾はなく、がっちりした体格の屈強な男性といった印象だった。
鍵を閉めたはずのドアが開いたことに加え、店内に割り込むように入ってきたことに驚きうろたえている間に、男はカウンターへと腰をかけていた。
「お客様、申し訳ございません。本日はすでに営業時間を過ぎていまして、また明日…」
「街で評判の店だと聞いた。ここなら最高の酒が飲めると。」
低く、よく通る声で遮られてしまった。それでも疲労がたまっていたシュウは、やはり帰ってもらうよう毅然とした態度で追い返すことにした。
「光栄ですが、また明日にでもお越しください。」
すると男はフードを脱ぎ、顔を出してシュウを見上げた。
「だ…だめ、なの?か?…な、なぜだ。やっと来れたのに。」
男は情けない表情で激しく動揺し、目に涙を浮かべはじめた。
体型に似合わない色白で割と目鼻立ちのいい整った顔をしていた男だった。
シュウは、みるみるうちに顔色が悪くなっていく男に同情したわけではないが、なぜか手を差し伸べてあげたくなった。少し警戒心が薄れたのかもしれない。
「………一杯だけなら、いいですよ。何にします?」
男は勢いよく顔を上げ、キラキラした目でシュウを見上げた。
「じ、じゃぁ!オススメを…ん゛っ。マスターの飲ませたいお酒を頼む。」
(なんで言い直したんだよ。)
「…オススメって言ったって、おいてあるお酒はみんなオススメですよ。」
男は激しく目を泳がせていた。
「な、なんでもいいから!おすすめのものを!今まで飲んだことのないような、そういうの!」
(なんでもいいって…無茶かよ。めんどくさいな。)
バックバーを見ながらシュウは探りを入れる。
「お客さん、バーは初めてですか?」
「は、はじめて、…だったかもしれない。」
(かもしれないってなんだよ。初心者で緊張してるのか?)
シュウは男の素性が掴めず困惑しながらも、一杯のお酒を作るために会話を試みる。
「お酒はよく飲みますか?」
「ああ!それなりに飲んだことはあるぞ。」
(見た目はがっしりしているし、長い旅路の冒険者ってところかな。)
「少々お待ちを」
どこかぎこちない男は店内を見回したかと思うと、カウンターの奥で準備を始めるシュウをまじまじと見つめていた。口元が少し緩んでいる。
そんな様子を横目に、シュウは形の異なるボトルを2つバックバーから取り出した。




