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異世界でバーを開いたら魔王が入り浸っているんだが  作者: 楢館祥人


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5-3 宵越の昔話

静かな店内。シュウは手を止めて、ザクレトの話に無意識に集中した。


「少し、昔話をしてやろう。」


「まだまだ魔族と人間の抗争が激しかったころ、ワシは一人の人間と、心を通わすようになった。名をエラルド。とある村の戦士だったが、異端者として、つまはじきにされていた男だ。」


◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 


当時は戦いが激しく、魔族と人間は顔を見合わせるやいなや、至る所で命の取り合いをしていた時代。人間も魔族も、戦いに飢え、勝利の数を重ねることが美徳となっていた。


だが、戦いを好む者ばかりではない。魔族も、人間も、争いを避けたい者は少なからず存在した。


「ワシも、戦いは好きな方ではなかった。」


とある森の中で、ザクレトは一人の男と遭遇した。人間の男だった。男は肉付きがよく、若く、そしてひどい怪我を負っており、道端に倒れこんでいた。多くの血を流し、命の危険を強く感じ取れる状態だった。

相手は人間だ。助ける義理もない。魔が差したとはいえ、回復したあとで攻撃されたら面倒だ。


「ぐっ…。」


この状態でも、まだ前に進もうと指先を動かしている。


---

「生きようとする気力に押されてな。気まぐれにもワシは手を差し伸べたのだ。」

---


魔王は、自分でも理由がよく分からぬまま、その男を助けることにした。


傷は癒えたが、男は気を失ったままだった。知らぬ地で、空き家を見つけ、そっと様子を見守るザクレト。夜が何度も明け、ついに男が意識を取り戻したとき、弱々しい声が空気を切った。


「ありがとう…。」


ザクレトは初めて聞くその声に顔を向ける。

「ワシの気まぐれで助けただけだ。目覚めたなら、それでよい。もう二度と会うこともあるまい。」


しかし男は、せめてもの礼として首から下げていた指輪を差し出す。光を受け、指輪は淡く輝く。ザクレトはその光をじっと見つめ、しばし沈黙した。


---

「出会いは何でもないものだった。目覚めた男にそれ以上関わるつもりもなかったしな。男を空き家に置いて、その場所を離れたんだ。」

「助けた礼にもらった指輪が、それか?」


グラスを傾ける指先で、指輪が怪しく青い光を放っていた。

「ああ。ワシの魔力がなじんで色が変わってしまったがな。」


「まぁ、その時そこに置いていった男には、あと2回、再会することになる。」

---


時は流れ、放浪の最中に、ザクレトは再び同じ男と出会った。


男は、人間の村から少し離れた土地で、一人でひっそりと暮らしていた。

自分が助けた男を見つけると、ザクレトは森の影で立ち止まってしまった。


「…誰だ!?」


男に弓を向けられ、とっさに木の影に隠れる。


「出てこい!」


ザクレトは影の中で人の姿に化け、両手を出して、ゆっくりと光の中に出ていく。

男は弓を緩めて、嬉しそうな表情を浮かべて声を上げた。


「お前さん!!あの時、助けてくれた人だろう!?」


男の名はエラルドといった。エラルドは傷を負っていた日、故郷の村へ戻ろうとしていた途中だったという。


「しかし、村からずいぶんと外れた場所にいるが?」

「俺は異端者だからな。生まれ育った村の中には一生入れないし、村の者は誰も話しかけてこない。」

「なんだそれは?それは故郷に帰れたことになるのか?」

「よそ者にはわかるまい。これが俺の村のしきたりだ。俺はこれでも幸せなんだ。」


ザクレトはしばらくエラルドと生活を共にすることにした。気まぐれで助けた男を観察してみたくなった。暇つぶし程度に考えていたのかもしれない。


ある夜、焚火を囲み、炎の揺らめきに照らされるエラルドの顔を見つめながら、木の爆ぜる音に耳を傾けていた。

「ザクレト。 俺の話、聞いてたか?」

「……いや…。」

「いいか、ザクレト。もう一度言うぞ。魔族はもともと人間だったんだよ。俺たちと同じ、人間さ。」

「……何?」

懐疑的な表情を、エラルドに向ける。

「そこで見た資料には、魔素の強い地に生まれ育ち、魔素を糧に魔法を操るようになった人間が、魔族と呼ばれた、って書いてあったんだ。」

「馬鹿な。聞いたこともない。」

「それが境界を出てわかった真実さ。俺たちの生まれるずっと昔では、同じ人間だったんだよ。何も違わないんだ。」


魔族と人間では、姿かたちまでまるで違う。同じ種だったはずがない。

ザクレトは眉を上げて、あざ笑うように答えた。

「村の境界を出て得た真実は、互いを忌み嫌い、殺しあう。争いが絶えることはない種族だってことだろう?」


エラルドの目は深く澄んでいた。

落ち着いた様子で、黙って焚火をつつくエラルド。


ザクレトも、目の前の火を見つめていた。

「俺はな、ザクレト。 人類と魔族が本当の意味で手を取り合える時、この世界は変わると思う。誰もが信じることができなかったような、この世界だけの唯一の未来を。」


「…魔族嫌いのお前が、そんなセリフを言うのか?」


◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 


シュウはカウンターの向こうで、静かに聞き入る。


「人間の心は複雑で難解だ。そういうエラルド自身、魔族を特に嫌っていたのに。まるで意味が分からなかった。この男を通じて、ワシは人間を知りたくなったんだ。」


シュウ(人間に対して友好的に見えるのは、このためか?)


ザクレト「3回目にあったのは、エラルドがずいぶんと年老いてからになる。」

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