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3-3 遺跡の冒険譚

その夜、バーは静かだった。

客足の少ない日というのは、妙に時間がゆっくりと流れる。カウンターの奥でグラスを磨いていたシュウは、扉の鈴が鳴る音に顔を上げた。

入ってきたのは、旅装のままの若い女性だった。

背に弓を背負い、腰に小さな銃を提げている。勝気な眼差しは、常に周囲を測るように鋭い。冒険者ノルムである。


「こんばんは!」


軽く挨拶しながらカウンターに近づくと、ノルムの視線がすぐに一点に釘付けになった。

そこには、小さな羽を震わせる妖精の姿――ピトが、ザクレトの肩に寄り添うようにして現れていた。

シュウは思わず息を呑んだ。


(見られたっ……!)


肝を冷やしたところで、次の瞬間、彼の予想は大きく外れる。


「ピトちゃん!」


ノルムの目が輝き、2人の方に駆け寄ってきた。

ピトはその声に振り返り、笑みを浮かべて主の肩から飛び立つ。


「ノルム! この間は、本当にありがとう!」

「いいえ、あなたのおかげでお宝を見つけられたんだし!」


その光景に、シュウはぱちぱちと瞬きをした。

仲良しのように打ち解けている二人の様子に、ただあっけに取られていた。


---------

――遺跡”朽ちた影”にたどり着いた一行。

森を抜けた丘陵地帯の奥、谷になっている人目につきにくい岩陰の間に口を開ける石造りの入口。崩れかけたアーチをくぐると、ひんやりとした空気が彼らを包んだ。


レオン――偽名を使うザクレトを先頭に、サルマ、ノルム、ゾーの四人は中へと足を踏み入れた。

やがて彼らが進んだ先は、奇妙な部屋だった。

入口と同じようなアーチで縁どられた石壁の両側には無機質な人型を模した像がずらりと並び、薄暗がりの中で不気味な影を落としている。

姿を潜ませたままのピトが、小声で耳打ちする。


「ザクレト様、この部屋……風の音が気持ち悪いですわ。」

「……あまり表に出るでない。」


ザクレトは低く答える。

だが、彼らのやり取りに気づいたノルムが振り向いた。


「どうしたの? レオンさん。」

「いや、なんでもない。」


サルマがマッチを取り出し、床に転がっていた松明に火をつけた。

部屋の中が炎に照らされ、表情が変わる。

ザクレトはその様子を見ながら、炎が激しく揺れていることに気づき、アーチ状に縁どられた壁の一つをじっと見つめた。

そして、そこから風がわずかに漏れ出していたことに違和感を抱いた。


「この壁、妙だな。」


ザクレトはノックするように石を叩き、他の壁との音の違いを示した。

ゾーはサルマと目を合わせて頷き、二人でその壁を崩すと、奥に上る階段が現れた。


「進もう。」


サルマが率先して前を行く。階段の先には、小さな部屋があった。


「また部屋か。」


一方の壁には無数のパイプが這うように配管された不思議な部屋だった。パイプには所々に穴が空いている。そして床には同じ素材のパイプ片が散乱していた。


「……ずっと嫌な音がしてますわ。」


ピトが耳を塞ぎながら訴える。


「何か原因があるのだろう。」


ノルムは部屋を見回し、仲間たちに問う。


「一体何なの、この部屋?」


ゾーはただザクレトをじっと見つめ、口を閉ざしている。

サルマは興味深そうに転がっていたパイプ片を拾い上げ、突然にそれを壁の穴に差し込んだ。

次の瞬間、部屋全体に奇妙な音色が響いた。

風がパイプを抜け、音階を作り出しているのだ。差す場所を変えると、旋律が変わっていく。


「ひぅっ!」


思わず奇声を上げたのはピトだった。


「レオン、どうした? 変な声出して。」


サルマが振り返る。


「い、いや! なんでもない!」


ザクレトは慌てて首を振るが、ピトは耳を塞ぎ、必死に彼へ耳打ちしていた。


「ザクレト様、そのパイプを!」

「サルマ、それを少し貸してくれないか。」


パイプ片を受け取り、ピトの指示通りに差し替える。

他のパイプ片も拾い、順々に壁のパイプに差し込んでいく。

やがて部屋全体が共鳴し、低く響く重音とともに、パイプの張り巡らされた壁とは反対の壁が、床の下へと沈んでいった。


現れたのは、新たな通路だった。


「っ…すげぇ……!」


サルマとゾーは興奮気味に駆け出す。ノルムも弓を抱え直して追いかけた。

ザクレトは後からついていき、ピトに小声で囁く。


「さっきは危なかったぞ。」

「ご、ごめんなさい……。」


---------


さらに進んだ先の部屋に、彼らは目を見張った。

そこには大量の銀塊と銀貨、銀でできた装飾品や食器が積み上げられていたのだ。

松明の光を反射し、部屋全体が白銀に輝く。


「うおお……!」


サルマが歓声を上げ、ゾーは思わずハンマーを掲げた。

ノルムも口を開けたまま、宝の山に見入っている。

ザクレトは満ち足りたように微笑み、後ろから盛り上がる三人の様子を見守っていた。


「まさか、こんな発見があるとはな。」


宝に目もくれないザクレトの隙を突くように、ノルムがふと振り返った。


「?! レオンさんっ……耳の後ろのところ、何かついてるわよ?」

「え?」


思わず耳元に手を振り上げる。


「わっ!」


隠れていたピトが、不意に押し出される形で姿をさらしてしまった。

光の中に現れた、小さな妖精の姿。


「な、なんだ……!?」


サルマが目を剥き、ゾーが息を呑む。

ノルムは驚きつつも、その存在をすぐに理解した。


「妖精……!?」


驚愕と興奮の入り混じった声が、銀に満ちた部屋に響いた。

こうして、ザクレト達の秘密の一端は、仲間たちの前にさらされてしまったのだった。

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