仙台四郎
水の怪異と言われると、やはり剛志を思い出す…フリマのメンバーでコイツがぐずると雨が降るのだ。
では、機嫌が良くなると、これが晴れるんだからしょうがない。
だから、剛は特別枠で仲間になっていた。基本、私と組んで私の運転手をしていた。
奴が車を出して、私が飯を奢るのだ。
少しぐらい天気が悪くても我々は勝負に出ていた。フリマと言うのは天気が肝である。天気が良ければ売り上げがいいし、雨になればイベント自体が中止になったりする。だから、我々はいつでも天気予報に気を使ったし、話題にしていた。
その日は、曇り時々はれ、と言うような天気で、雨が突発的に降るとか予報されていた。フリマには最適とは言えない天気だけれど、我々には好天気であった。
こう言う天気だと、出店をやめる人が出たりするから、中途出店ができないルールなので、ここで一転、晴れたりすると客が分散されずにこっちにきて売り上げが良くなったりするからだ。
我々には天気の魔人・剛がいた。
だから、こう言う天気では勝負に出る。
剛が私を迎えに来た時は厚い雲に覆われていた。今にも降りそうな空を見上げながら私は車に盛り込んで剛に聞いた。
「さあ、早くワクドに行こう!今日は特別にスペシャルで頼むから、天気宜しくね。」
何やら電波的なコメントを中年オヤジの剛がタレントのように右斜め上のコメ返をする。
「やったー。うんうん、なんでもするよ。今日はソーセージのでいいの⁈」
そう言って嬉しそうにする剛と仲良くファーストフードの店にゆく。
剛は普通におっさんだけれど、すでに天気をなんとかする気が満々だった。
私たちは少しの間、今日の予定を話し、そして、いつものごとく剛の遅刻の話を始めた。剛は遅刻魔で30分は平気で遅刻する時があった。
私もよせばいいのに、どうにもならない剛の態度にいつもケンカは始まるのだ。で、夢中でお互いのダメ出しをしながら、赤信号で止まった時に気が付いた。大雨である。
雨、傘が必要な雨、こうなると、もう、イベント自体が中止になる可能性がある。喧嘩なんかしてる場合じゃない。
私は思考を止めて謝る。魔人・剛に雨を止めるように謝り、そして、ワクドにつくとコーヒーをLサイズに変更して剛志をもてなした。
別に本当に剛志に力があるとか信じてるわけではない。他の仲間に連絡をとりながら、奴がうまそうにマフィンを食べるのを見て、私が言い過ぎたのを反省する。が、それが素直にできないから、天気の事にすり替えて茶化して謝るようにしているのだ。
今、思えば、あの雨神設定は、コミュニケーション下手な我々の非常手段だったのだと思う。
しばらくして、リーダーの晴香が、天気予報を見て、晴れそうだから一応、行くと連絡が来て、私たちは店を出る。
ドアを開けたそのタイミングで、勢いを無くした雨の向こうで太陽が輝く。
夏の日差しに照らされて、キラキラと輝く水晶の雨を見つめながら、どうにもファンタジーな気持ちを振り切ることができなっかった。
「あ、卯月さん。虹が出てるよ。綺麗だね。」
剛の笑顔が美しく見えた。
虹を見ながら、仙台四郎の伝説を思いだす。
四郎のゆく店はどこも繁盛するのだそうだ。そして、邪険にする店は傾いてゆくのだそうだ。
剛もどこか信じやすくてピュアなところがあって、そんなところで天気の神さま、と、いうか、ご先祖様が総出で助けていたのかもしれない。
私は、超常現象には懐疑的ではあるが、一度、奴の方から『カツを食わしてくれたら、雨を止めてやるよ。』と、粋がったその時、雷と共に雨が強くなった時は、本当に神様っているのかもしれない、と、思った。