表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/18

第九話「ノースリーフの洗礼」

 

 漁師転職への道筋が見えてきた今、俺は次のステップに向けて準備を進めていた。レベルも10に上がり、海洋装備も一通り揃っている。


「今日こそ、ノースリーフに行こう」


 約束していたカイトとレイと、オルディア港の船着き場で待ち合わせた。


「おお、ウシオ!準備はできてるか?」


 カイトが手を振りながら近づいてくる。その後ろには、すっかり見慣れたレイの姿もあった。


「はい!今日は本格的な海釣りを教えてください」


「その意気だ。レイも一緒だから、安心しろ」


 レイも笑顔で頷いた。


「僕も海での狩人スキルを試してみたいんです。陸とは違う戦術が必要でしょうし」


 三人で中型の釣り船に乗り込む。カイトが船を操縦し、ゆっくりと港を離れていく。


「ノースリーフまでは船で約1時間だ。その間に、海での戦闘について説明しておく」


 カイトは船を操縦しながら話し始めた。


「海での戦闘は陸と全く違う。足場が불安定だし、水に落ちたら大変だ。それに、海にはサメ系の魔物がいる」


「サメ系の魔物?」


「ああ。リーフシャークやハンマーシャークなんかが代表的だ。素早い動きで船を襲ってくる」


 船が沖に出ると、海の色が濃い青に変わった。透明度も高く、海底まで見通せる。


「きれいな海ですね」


「ノースリーフは水深が浅いから、海底がよく見える。そのぶん、魔物も発見しやすいんだ」


 しばらく進むと、海面に岩礁が見えてきた。


「あれがノースリーフか」


「そうだ。あの岩礁周辺は魚影が濃い。でも、同時に危険でもある」


 船をゆっくりと岩礁に近づける。水深は3〜4メートルほどで、海底には色とりどりの珊瑚が見える。


「うわあ、すげぇ」


 オルディア港周辺とは全く違う光景だった。熱帯魚のような美しい魚たちが泳ぎ回っている。


「まずは釣りから始めよう。ここで釣れる魚を教えてやる」


 カイトが船を停止させ、錨を下ろした。


「ここではブルーマリン、ゴールデンタナゴ、それにレッドスナッパーも狙える」


 俺は興奮して釣り竿を準備した。ガンソウ爺さんからもらった愛用竿に、海洋魚専用ルアーを取り付ける。


「ルアーでの釣りは餌釣りと違って、魚を誘う技術が必要だ」


 カイトが実演してくれる。ルアーを海に投げ、リールを巻きながら魚を誘う動作。


「なるほど、魚の動きを真似するんですね」


「そういうことだ。小魚が泳ぐような動きを演出する」


 俺も真似して投げてみる。最初はぎこちなかったが、だんだんコツを掴んできた。


 そんな時、レイが船の端で何かを見つめていた。


「あ、何か泳いでますよ。結構大きいみたいです」


 指差す方向を見ると、確かに大きな影が移動している。


「あれは……リーフシャークだな」


 カイトの表情が急に真剣になった。


「危険ですか?」


「こちらから手を出さなければ大丈夫だが、時々船に体当たりしてくることがある」


 その時、海面が盛り上がった。グレーの背びれが海面を切って進んでくる。


「こっちに向かってますね」


「まずいな。船を揺らされると釣りどころじゃない」


 リーフシャークは体長2メートルほどの大型魔物だった。鋭い歯を持ち、明らかに危険な相手だ。


「戦うしかないのか?」


「そうだな。ウシオ、動物交感スキルは使えるか?」


「試してみます」


 俺は動物交感スキルを発動した。リーフシャークの感情が流れ込んでくる。攻撃的というより、縄張りを守ろうとする意識が強い。


「あいつ、この岩礁を縄張りにしてるみたいです。侵入者を排除しようとしてる」


「なるほど。だったら、敵意がないことを示せるか?」


 俺はリーフシャークに向かって、平和的な意図を送ろうとした。しかし、野生の本能が強く、なかなか通じない。


「だめです。野生すぎて交感が難しい」


「そうか。なら戦闘だ」


 カイトが弓を構える。レイも罠の準備をしていた。


「ウシオ、君は後方支援を頼む。海での戦闘は慣れが必要だからな」


「分かりました」


 リーフシャークが船に突進してきた。船が大きく揺れる。


「うわっ」


 バランスを崩しそうになったが、なんとか踏ん張った。


 カイトの矢がリーフシャークに命中する。『-12』のダメージが表示された。


「レイ、罠の準備はどうだ?」


「海では普通の罠は使えません。でも、網なら」


 レイが投網を取り出した。狩人の応用スキルで、魚を捕まえる道具も扱えるらしい。


「ナイスアイデアだ」


 リーフシャークが再び突進してくる。その瞬間、レイが投網を投げた。


 網がリーフシャークに絡まり、動きが鈍くなる。


「今だ!」


 カイトが連続で矢を放つ。俺も後方から弓で攻撃に参加した。


 海上での戦闘は想像以上に難しかった。足場が不安定で、狙いを定めるのも一苦労だ。


「海での戦闘はバランス感覚が重要だな」


 数分間の戦闘の末、リーフシャークを倒すことができた。


『リーフシャークを討伐しました』

『経験値を獲得しました』

『海洋戦闘スキルLv.1を習得しました』


「海洋戦闘スキル?」


「海上での戦闘に特化したスキルだ。船上でのバランス感覚や、海洋魔物への対処法が向上する」


 新しいスキルを習得できて嬉しかった。


「さて、邪魔者はいなくなった。本格的な釣りを始めよう」


 カイトが再び釣り竿を構える。俺とレイも続いた。


 ノースリーフの海は、オルディア港とは比較にならないほど魚影が濃かった。ルアーを投げてすぐに反応がある。


「きた!」


 俺の竿に大きなアタリがあった。今までに経験したことのない強い引きだ。


「これは大物だぞ」


 必死に竿を立てて魚とやり取りする。リールからジリジリと糸が出ていく。


「落ち着け。慌てるとバレるぞ」


 カイトのアドバイス通り、慎重に対応する。魚の動きに合わせて竿を操作し、徐々に手元に寄せていく。


 ついに海面に魚の姿が見えた。美しい青色の背中と銀色の腹。


「ブルーマリンだ!」


『ブルーマリンを釣り上げました』


 見事に釣り上げることができた。ブルーマリンは40センチほどの立派な魚で、その美しさに見とれてしまった。


「素晴らしい!ノースリーフでの初釣りでブルーマリンとは」


 カイトも嬉しそうだった。


「この魚、高く売れるんですよね?」


「ああ、市場では300G以上で取引される。それに、料理にすると優秀なバフ効果もある」


 その後も順調に釣れ続けた。ゴールデンタナゴ、シルバーブリーム、そして再びブルーマリンと、オルディア港では釣れない魚ばかりだった。


「レイさんも投網での漁、上手ですね」


「狩人の採取スキルの応用です。海でも意外と使えるもんですね」


 レイは投網で小型の魚を大量に捕まえていた。


「海洋狩人としての新しいスタイルだな」


 カイトも感心している。


 夕方になる頃、俺たちは十分な釣果を得ていた。ブルーマリン3匹、ゴールデンタナゴ5匹、その他多数。レベルも11に上がっている。


「今日は大成功だったな」


「はい!海での戦闘も釣りも、すごく勉強になりました」


「これで君も立派な海洋系狩人だ。次はフィッシュアローを教えてやる」


 帰りの船で、俺は今日の体験を振り返った。リーフシャークとの戦闘、ブルーマリンとの格闘、そして新しいスキルの習得。


「海って、本当に奥が深いな」


 オルディア港の灯りが見えてきた時、俺の心は既に次の冒険への期待で満たされていた。

【アルネペディア】

・ノースリーフ:オルディア港から船で1時間の中級者向け海域。岩礁に囲まれた浅い海域で、ブルーマリンやゴールデンタナゴが釣れる。リーフシャークなどの海洋魔物も生息。


・リーフシャーク:ノースリーフに生息する体長2メートルのサメ系魔物。縄張り意識が強く、船に体当たりしてくることがある。


・ブルーマリン:中級海域で釣れる高級魚。美しい青色の背中と銀色の腹を持つ。市場価格300G以上で、料理にすると優秀なバフ効果を持つ。


・ゴールデンタナゴ:ノースリーフで釣れる金色に輝く魚。ブルーマリンと並ぶ中級者向けの釣り対象。


・海洋戦闘スキル:海上での戦闘に特化したスキル。船上でのバランス感覚向上や海洋魔物への対処法を習得できる。


・投網:狩人が使用可能な漁具。罠スキルの応用で海洋での漁に使用できる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
海での戦闘は の後に 足場が不安定 だと思われる部分の不の字の箇所が ワケワカラン記号?になっていますが、 誤字なんでしょうかね? 実は不安定と読める記号だったりしますか?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ