表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/18

第六話「狩人としての成長」

 

 カイトとの約束から三日が経った。ノースリーフに行くためには、もう少しレベルを上げる必要がある。カイトからは「最低でもレベル8は欲しい」と言われていた。


「よし、今日は陸地でレベル上げだ」


 オルディア港の東にある『初心者の森』に向かった。ここはレベル1〜10のプレイヤー向けのフィールドで、様々なモンスターが生息している。


 森に入ると、すぐに他のプレイヤーたちの姿が見えた。剣を振り回す戦士、魔法を唱える魔術師、短剣で素早く動き回る盗賊。皆、効率よくモンスターを狩っている。


「俺も頑張らないとな」


 最初に遭遇したのは『フォレストスライム』だった。港にいるスライムより少し大きく、緑色をしている。


 短弓を構え、狙いを定める。チュートリアルの頃と比べて、命中率は格段に上がっていた。釣りで培った集中力と手の安定性が効いているのかもしれない。


 一射目が見事に命中。『-8』のダメージが表示された。レベルが上がったおかげで、攻撃力も向上している。


 三発でフォレストスライムを倒し、経験値を獲得した。


「よし、この調子で行こう」


 森を進んでいくと、『ゴブリン』に遭遇した。小柄な人型の魔物で、棍棒を持っている。スライムより手強そうだ。


 距離を取って弓で攻撃する。ゴブリンはこちらに向かって突進してくるが、後退しながら矢を放つことで対処できた。これも狩人らしい戦い方だ。


「意外と面白いじゃん」


 最初は海に出るための手段として考えていた戦闘だったが、やってみると狩人としての戦術に奥深さを感じる。距離を保ち、相手の動きを読んで的確に攻撃する。まるで魚とのやり取りに似ている部分もあった。


 しばらく狩りを続けていると、別の狩人プレイヤーと出会った。


「お疲れ様です」


 声をかけてきたのは、俺と同じくらいの年齢に見える青年だった。名前は『レイ』。


「お疲れ様です。同じ狩人の方ですね」


「はい。レベル7です。あなたは?」


「レベル5になったばかりです」


「おお、僕より少し下ですね。一緒に狩りしませんか?パーティを組むと経験値効率が上がるんです」


 パーティ。そういえば、まだ他のプレイヤーとパーティを組んだことがなかった。


「お願いします」


 レイからパーティ招待が来て、承諾した。視界の端に、レイのHPとMPが表示される。


「僕は基本的に前衛タイプです。罠スキルを使って敵を足止めして、接近戦で倒すスタイルなんです」


「罠スキル?」


「はい。狩人の特殊スキルの一つです。まだ覚えてませんか?」


「全然知りませんでした」


「狩人は弓だけじゃないんですよ。採取、罠、野営、追跡……色んなスキルがあります」


 レイの説明を聞いて、俺は目から鱗が落ちる思いだった。狩人という職業の可能性の広さを、全然理解していなかった。


「教えてもらえませんか?」


「もちろんです!」


 レイは嬉しそうに罠の設置方法を教えてくれた。地面に小さな仕掛けを置き、そこを通った敵の足を絡め取るという仕組みだ。


『罠スキルLv.1を習得しました』


「おお、覚えました!」


「早いですね。センスありますよ」


 罠を使った狩りは、今までと全く違う戦術だった。敵の動きを予測し、適切な場所に罠を仕掛ける。そして誘導して罠にかけ、動けなくなったところを弓で仕留める。


「これ、めちゃくちゃ面白いです!」


「でしょう?狩人は頭脳戦なんです。力押しじゃない」


 レイと一緒に狩りを続けているうちに、様々なスキルを教わった。『野営スキル』でフィールドでの休息効率を上げたり、『追跡スキル』で敵の足跡を読んだり。


「狩人って、こんなに奥が深いんですね」


「そうなんです。でも、最近は皆、効率を求めて戦士や魔術師を選ぶんですよ。狩人は地味だって」


 レイは少し寂しそうに言った。


「僕も最初は戦士にしようかと思ったんですけど、狩人の方が面白そうだったので」


「俺は海が好きで狩人を選んだんです」


「海?」


 俺はカイトとの出会いや、釣りのことを話した。レイは興味深そうに聞いてくれた。


「すごいですね!僕は釣りはやったことないです。今度教えてください」


「いいですよ!でも、まずはレベル上げを頑張らないと」


「そうですね。ノースリーフ、僕も興味あります。一緒に行けませんか?」


「カイトさんに聞いてみます」


 レイとのパーティは予想以上に効果的だった。お互いの得意分野を活かして、効率よくモンスターを狩ることができる。俺は弓での遠距離攻撃、レイは罠と近接戦闘。


 夕方になる頃には、俺のレベルは7に上がっていた。


「やったぜ!」


「早いですね。やっぱりセンスありますよ」


 スキルも大幅に向上していた。弓術はLv.3、採取はLv.2、そして新しく罠Lv.1と野営Lv.1を習得。狩人らしいスキルセットが整ってきた。


「これで海に出る準備ができたかな」


「海かあ……僕も行ってみたいです」


 その時、森の奥から大きな唸り声が聞こえてきた。


「何だ、あれ?」


 木々の間から現れたのは、今まで見たことのない大型のモンスターだった。『フォレストベア』という名前が表示されている。


「やばい、ボス級だ!」


 レイの顔が青ざめた。フォレストベアは体高2メートルはある巨大な熊で、明らかに俺たちのレベルでは太刀打ちできない相手だった。


「逃げよう」


「いや、待ってください」


 俺は冷静に状況を観察した。フォレストベアは確かに強そうだが、動きが鈍い。そして、何より興味深いことに気づいた。


「あいつ、傷ついてませんか?」


 よく見ると、フォレストベアの左足から血が流れている。どうやら罠か何かにかかって負傷しているようだ。


「本当だ。でも、それでも危険ですよ」


「うーん……」


 俺は現実の知識を思い出した。負傷した動物は、時として予想外の行動を取る。逃げるか、逆に攻撃的になるか。


 フォレストベアをよく観察すると、こちらに敵意を向けていないことに気づいた。むしろ、苦しそうにうめいている。


「もしかして……助けを求めてる?」


「えっ?」


「動物って、時々人間に助けを求めることがあるんです。現実でも、釣り針が刺さった鳥が人に近づいてきたりして」


 俺は恐る恐るフォレストベアに近づいた。


「危険ですよ!」


 レイが止めようとしたが、俺は直感を信じて歩き続けた。


 フォレストベアは俺を見つめたが、攻撃してこない。むしろ、左足を見せるような仕草をした。


「やっぱり……」


 左足に金属製の罠が食い込んでいる。かなり深く刺さっていて、自分では外せない状態だった。


「レイさん、罠外しのスキルってありますか?」


「え、ええ……罠解除スキルなら」


「お願いします。あいつを助けましょう」


「本気ですか?」


「はい」


 レイは恐る恐る近づき、罠解除スキルを使った。金属の罠がカチリと外れると、フォレストベアは安堵のため息をついた。


『フォレストベアとの友好度が上昇しました』


『イベント「森の王との邂逅」達成』


『特殊スキル「動物交感」を習得しました』


「えっ?」


 突然のシステムメッセージに驚いた。


「すげぇ、隠しイベントだったんだ!」


 レイも興奮している。


 フォレストベアは俺たちに頭を下げると、森の奥へと去っていった。しかし、去り際に何かを地面に落としていく。


『フォレストベアの毛皮を獲得しました』


『森の実×5を獲得しました』


「お礼の品ですね」


「動物交感スキルって何だろう?」


 スキル説明を確認すると、『野生動物との意思疎通を可能にするスキル。レベルが上がると、動物から情報を得たり、協力を要請できる』とあった。


「これ、すげぇスキルじゃないですか?」


「海でも使えそうですね。イルカとか魚とか」


 俺は胸が躍った。このスキルがあれば、海での活動がもっと豊かになるかもしれない。


「今日は大収穫でしたね」


「はい!レイさんのおかげです」


 森を出る頃には、俺のレベルは8に到達していた。ノースリーフに行く条件も満たしている。


「明日、カイトさんに報告してきます」


「僕も一緒に海に行けたらいいな」


「きっと大丈夫ですよ」


 港に戻る道すがら、俺は今日の成果を振り返った。レベルアップだけでなく、狩人としての幅広いスキルを身につけ、さらには特殊な動物交感スキルまで習得できた。


「海で新しい冒険が待ってる」


 明日からは、いよいよ本格的な海洋冒険が始まる。胸の奥で何かが熱くなるのを感じながら、俺は港の灯りに向かって歩き続けた。

【アルネペディア】

・初心者の森:オルディア港東部にあるレベル1〜10向けのフィールド。フォレストスライム、ゴブリン、フォレストベアなどが生息。


・フォレストスライム:初心者の森に生息する緑色のスライム。通常のスライムより若干強い。


・ゴブリン:小柄な人型魔物。棍棒を持ち、突進攻撃を得意とする。


・フォレストベア:初心者の森のボス級モンスター。体高2メートルの巨大な熊。通常は非常に危険だが、

特定条件下では友好的になることがある。


・罠スキル:狩人の特殊スキル。地面に仕掛けを設置して敵の動きを封じる。罠解除も可能。


・野営スキル:フィールドでの休息効率を向上させるスキル。狩人の基本スキルの一つ。


・追跡スキル:敵の足跡や痕跡を読み取るスキル。狩人の専門技術。


・動物交感:野生動物との意思疎通を可能にする特殊スキル。レベルが上がると動物から情報を得たり協力を要請できる。イベント「森の王との邂逅」で習得可能。


・レイ:レベル7の狩人プレイヤー。罠と近接戦闘を得意とする。ウシオに狩人の様々なスキルを教えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ