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第三話「港町の情報収集」

 

 チュートリアルを終えた俺は、改めてオルディア港の街並みを見回した。石造りの建物が立ち並ぶ中世風の港町で、至る所から潮の香りが漂ってくる。現実の漁港とは違う幻想的な美しさがあった。


「さて、まずは情報収集だな」


 MMOの基本は情報収集から始まる。特に俺の場合、海に関する情報が必要だ。狩人として選択したのは正解だったが、最終的な目標は海での活動にある。


 港の中央にある大きな建物が目に入った。看板には『海風亭』と書かれている。典型的な酒場だ。情報収集なら酒場が一番だろう。


 扉を開けると、薄暗い店内から賑やかな声が聞こえてきた。木のテーブルには様々な種族のプレイヤーやNPCが座り、酒を飲みながら談笑している。


「いらっしゃい、坊主。見ない顔だな」


 カウンターの向こうから、髭面の中年男性が声をかけてきた。頭上に表示された名前は『マスター・ボルドー』。NPCらしい。


「はい、今日始めたばかりです。この町や海のことを教えてもらえませんか?」


「ほう、海に興味があるのか。珍しいな、最近の若い冒険者は皆、ダンジョンや魔物狩りばかりだ」


 ボルドーは感心したような表情を浮かべた。


「この港町、オルディア港はアルネシア大陸でも屈指の港だ。五つの地域を結ぶ海路の中心地でもある。だが、海は美しいだけじゃない。危険も多いぞ」


「危険、ですか?」


「ああ。海には様々な魔物が棲んでいる。シーサーペント、クラーケン、人魚族の中でも凶暴な種もいるからな。それに嵐も突然やってくる」


 俺は興味深く話を聞いた。現実の海とは違う、ファンタジー世界ならではの要素だ。


「でも、海の恵みも豊富だ。美味しい魚はもちろん、真珠や海草、珊瑚など、貴重な素材も採れる。特に満月の夜に釣れる『ムーンフィッシュ』は高値で取引されるんだ」


「ムーンフィッシュ!」


 思わず身を乗り出した。月と魚の関係は現実でも深い。このゲームでもそれが再現されているのか。


「おお、食いつきがいいな。坊主、もしかして釣りに興味があるのか?」


「はい!大好きです」


「それなら、港の東側にいる『ガンソウ爺さん』に話を聞いてみるといい。あの爺さんは昔からこの港で漁をしている古参だ。きっといい話が聞けるぞ」


 ボルドーから貴重な情報を得た俺は、礼を言って酒場を出た。


 港の東側へ向かう途中、他のプレイヤーたちの会話が耳に入ってきた。


「レベル上げなら東の森がおすすめだよ」


「ダンジョンの新しい攻略法見つけたんだ」


「装備強化に失敗して破産した……」


 皆、戦闘や装備のことばかり話している。海の話をしているプレイヤーは一人もいなかった。


「まあ、それが普通だよな」


 俺は少し寂しく思いながらも、港の東側に到着した。そこには古い木造の小屋があり、扉の前で白髭の老人が網を繕っていた。


「あんた、見ない顔じゃな」


 老人が顔を上げた。頭上には『漁師ガンソウ』の文字が表示されている。


「はじめまして。海風亭のボルドーさんに紹介されて来ました。海や釣りのことを教えていただけませんか?」


 ガンソウの目が輝いた。


「おお!久しぶりじゃ、海に興味を持つ若者に会うのは。最近は皆、剣や魔法ばかりでのう」


「僕、釣りが大好きなんです。現実でも釣り部の部長をやってます」


「現実でも釣りを!それは頼もしい。では、このアルネシアの海について教えてやろう」


 ガンソウは立ち上がり、海を指差した。


「見えるか、あの青い海を。この海域には四つの釣りポイントがある。ここオルディア港の桟橋は初心者向けじゃ。『コモンフィッシュ』や『シルバーダイ』がよく釣れる」


 俺は必死にメモを取った。といっても、VRなので頭の中で記憶するだけだが。


「港から北へ船で一時間の『ノースリーフ』は中級者向け。『ブルーマリン』や『ゴールデンタナゴ』が狙える。ただし、サメ系の魔物も出るから注意が必要じゃ」


「サメの魔物……」


「南の『サウスコーブ』は上級者向けじゃな。『レッドスナッパー』や『プラチナアジ』が釣れるが、シーサーペントの幼体も出る。最後に西の『ウエストディープ』は……」


 ガンソウの表情が急に真剣になった。


「そこは危険すぎる。伝説級の魔物が棲んでいるという話じゃ。近づかない方がいい」


「でも、いつかは挑戦してみたいです」


「ほほう、やる気があるのは良いことじゃ。だが、まずは基本からじゃ。坊主の職業は?」


「狩人です」


「狩人か……釣りには直接関係ないが、採取スキルは応用が利く。海藻や貝類の採取にも使えるからな。それに弓の技術は、魚を捕まえる時にも役立つぞ」


「魚を弓で?」


「ああ、『フィッシュアロー』という技術がある。浅瀬の魚を狙い撃ちするんじゃ。狩人なら覚えられるかもしれん」


 俺の目が輝いた。これは面白そうだ。


「それで、坊主。釣りを始めるつもりなら、まずは道具が必要じゃ。わしの店で『初心者用釣り竿セット』を売っている。50Gじゃが、どうじゃ?」


 所持金を確認すると、チュートリアルとクエストで稼いだお金が80Gあった。


「買います!」


「よし、気に入った。これが初心者用釣り竿セット。竹竿、釣り糸、針、浮き、それに餌が入っている」


 アイテム欄に釣り道具が追加された。現実で使っているものより簡素だが、これで海釣りができる。


「ありがとうございます!早速試してみます」


「待て待て、まずは基本を教えるぞ。釣りにも時間や場所が大事じゃ。朝と夕方は魚の活性が高い。それに潮の満ち引きも関係する」


 潮汐の話が出て、俺は身を乗り出した。


「潮汐ですか!」


「おお、知っているのか?」


「はい!満潮の前後2時間が一番よく釣れるって、祖父から教わりました」


「素晴らしい!その知識はここでも生きるぞ。このゲームでも潮汐システムが実装されているからな」


 ガンソウは感心したように頷いた。


「よし、それなら桟橋で実際に釣りをしてみるといい。分からないことがあったら、いつでも来なさい」


「ありがとうございます!」


 俺は釣り竿を握りしめ、港の桟橋へ向かった。ついに、アルネシアの海で釣りをする時が来た。


 桟橋には何人かのプレイヤーがいたが、皆レベル上げや装備の話をしている。釣りをする様子は見えない。


「まあ、俺一人でも全然平気だ」


 俺は桟橋の端に立ち、海を見つめた。エメラルドグリーンの海面が太陽の光を反射して美しく輝いている。魚の影もちらほら見える。


「よし、アルネシアでの初釣り、始めるぞ!」


 胸の奥で何かが躍るのを感じながら、俺は釣り竿を海に向けて振り上げた。

【アルネペディア】

・海風亭:オルディア港にある酒場。マスター・ボルドーが経営。冒険者の情報交換の場。

・マスター・ボルドー:海風亭の主人。港町の情報に詳しいNPC。

・漁師ガンソウ:港の東側に住む古参の漁師NPC。海や釣りに関する豊富な知識を持つ。

・ムーンフィッシュ:満月の夜に釣れる特別な魚。高値で取引される。

・四つの釣りポイント:オルディア港周辺の海域。桟橋(初心者)、ノースリーフ(中級)、サウスコーブ(上級)、ウエストディープ(危険地帯)。

・フィッシュアロー:弓で浅瀬の魚を狙い撃ちする技術。狩人が習得可能。

・初心者用釣り竿セット:ガンソウが販売する釣り道具一式。50G。

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