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第十八話「漁師への転職」

 

 古代海洋神殿の発見から三日が経った。港では相変わらずワールドアナウンスの話題で持ちきりだが、俺にはもっと重要なことがあった。


 手に持っているのは、海洋人から授けられた『潮流統率の書』。この古代の叡智を学ぶことができれば、ついに漁師への転職が叶うかもしれない。


「ガンソウ爺さんに相談してみよう」


 俺は港の東側にあるガンソウの小屋に向かった。


「おお、ウシオ!古代神殿の発見、すごいじゃないか」


 ガンソウ爺さんが嬉しそうに迎えてくれた。


「ありがとうございます。実は、相談があって来ました」


 俺は潮流統率の書を取り出した。


「これは...まさか」


 ガンソウ爺さんの目が大きく見開かれた。


「古代の漁法書じゃないか。こんなものが残っていたとは」


「海洋人から直接いただきました。これを学べば、漁師になれるでしょうか?」


 ガンソウ爺さんは書を手に取り、古代文字を読み始めた。


「ふむふむ...『潮流統率』『深海交感』『魚群予知』...どれも失われた技術じゃ」


 興奮した様子で説明してくれる。


「特に潮流統率は、海の流れを自在に読み、時には操ることで魚を導く技術。これができれば、まさに海の主と呼べる存在になれるぞ」


「教えていただけませんか?」


「もちろんじゃ!こんな貴重な技術を学べる機会は二度とない」


 ガンソウ爺さんから、古代漁法の実践指導が始まった。


 まずは『潮流読み』から。これは海の流れを正確に把握する技術だ。


「海の流れは常に変化している。風向き、月齢、海底の地形、すべてが影響するんじゃ」


 実際に海に出て、ガンソウ爺さんの指導を受けながら練習する。


「手を海に入れて、流れの方向と強さを感じるんじゃ」


 最初は全く分からなかったが、徐々にコツを掴んできた。現実での潮汐知識が、ここでも大きく役立った。


『スキル「潮流読み Lv.1」を習得しました』


「やった!」


 続いて『魚群探知』の練習。これは魚の群れがどこにいるかを直感的に察知する技術だ。


「動物交感スキルと組み合わせることで、より効果的になるじゃろう」


 動物交感スキルを発動しながら、海の中の魚の気配を探る。すると、確かに魚の群れがいる方向が分かるようになった。


『スキル「魚群探知 Lv.1」を習得しました』


 そして最も難しい『潮流統率』の練習。これは海の流れを操り、魚を思い通りの場所に導く技術だ。


「これは相当な修練が必要じゃ。まずは小さな流れから始めるんじゃ」


 集中して海の流れに意識を向ける。最初は全く動かなかったが、古代の書に書かれた呪文のような言葉を唱えながら試していると...


 わずかだが、海の流れが変化した気がした。


「おお!才能があるじゃないか」


『スキル「海洋統率 Lv.1」を習得しました』


 一週間の特訓を経て、俺は古代漁法の基礎を身につけることができた。


「素晴らしい成長じゃ。これなら間違いなく漁師の資格がある」


 ガンソウ爺さんが太鼓判を押してくれた。


「では、正式に漁師への転職を認めよう」


『転職条件「海への理解」が完全に達成されました』

『職業「狩人」から「漁師」への転職が可能になりました』


「転職しますか?」


 迷わず「はい」を選択した。


『転職完了:漁師 Lv.1になりました』

『新スキル「古代漁法」を習得しました』

『海洋での活動効率が大幅に向上しました』


「ついに...漁師になれた!」


 感動で胸がいっぱいになった。ゲームを始めてから、ずっと目標にしていた漁師への転職。ついに夢が叶った。


「おめでとう、ウシオ。いや、立派な漁師さんじゃ」


 ガンソウ爺さんも嬉しそうだった。


「これからは、真の海の探求が始まるぞ。まだまだ学ぶことはたくさんある」


 その日の夜、俺は宿屋で掲示板をチェックしていた。血抜き熟成法の話題が相変わらず盛り上がっている中、ミオからの新しい投稿を見つけた。


『【研究報告】血抜き熟成法の発展的研究について』

『料理人のミオです。


 血抜き熟成法の普及により、多くの方から素晴らしい結果報告をいただいております。

 さらなる品質向上を目指し、追加実験を行いました。


【実験内容】

 現在の24時間熟成を、48時間、72時間と延長した場合の効果検証


【課題】

 より長時間の熟成には、完全な密閉環境が必要と判明

 現在の保存袋では空気の侵入を完全に防げず、長期熟成で品質劣化のリスク


【期待される効果】

 完全密閉での長期熟成により、さらなる旨味向上の可能性

 理論上は一週間程度の熟成も可能かもしれません


 密閉技術にお詳しい方がいらっしゃいましたら、ぜひご協力をお願いいたします。

 海洋系プレイヤーの皆様の食生活をより豊かにするため、研究を続けてまいります。』


「ミオさん、さらに研究を進めてるのか」


 俺も興味深く読んだ。確かに、完全密閉ができれば熟成効果はさらに高まるだろう。


「密閉技術か...誰か詳しい人がいればいいんだけど」


 そんなことを考えながら、俺は自分のステータスを確認した。


【ウシオ Lv.14 漁師】

 STR:22 DEX:28 INT:18

 VIT:25 AGI:26 LUK:20


 スキル一覧も大幅に変化していた。


 ・潮流読み Lv.1

 ・魚群探知 Lv.1

 ・海洋統率 Lv.1

 ・古代漁法 Lv.1

 ・釣りスキル Lv.5

 ・フィッシュアロー Lv.3

 ・動物交感 Lv.4

 ・解体スキル Lv.2

 ・採取スキル Lv.4


「すげぇ、スキルがたくさん増えてる」


 特に古代漁法は、複数の技術を統合した特殊スキルのようだった。これからの海洋活動が、さらに充実したものになりそうだ。


 翌日、俺は早速漁師として新しい海洋活動を開始した。潮流読みスキルを使うと、これまで見えなかった海の流れが手に取るように分かる。


「あっちに魚の群れがいる」


 魚群探知スキルで群れの位置を特定し、海洋統率スキルで潮の流れを微調整して魚を誘導する。


 結果は驚くべきものだった。これまでとは比較にならない効率で、大量の魚を釣ることができたのだ。


「これが漁師の力か」


 カイトやレイも驚いていた。


「ウシオ、すげぇな。まさに海の主って感じだ」


「漁師への転職、成功だったみたいですね」


 仲間たちも俺の成長を喜んでくれた。


 しかし、俺にとって一番嬉しかったのは、技術や効率の向上ではなかった。海との一体感が、これまでとは全く違うレベルに達していることだった。


「海が...語りかけてくる感じがする」


 潮の満ち引き、風の向き、魚たちの動き。すべてが一つの大きな調和の中で動いていることが感じられる。


「これが、真の海への理解ってことなのかな」


 夕日が海に沈む中、俺は一人で海を眺めていた。狩人として始まった海洋生活が、ついに漁師として新たなステージに到達した。


 でも、これはゴールではない。むしろ新しいスタートだ。古代の叡智を学び、海の深淵に挑み、まだ見ぬ海の秘密を探求していく。


「明日からも、海と共に生きていこう」


 俺は決意を新たに、宿屋へと向かった。漁師ウシオの新しい冒険が、今始まろうとしていた。

【アルネペディア】

・潮流読み:海の流れを正確に把握するスキル。風向き、月齢、海底地形などの影響を総合的に読み取る古代漁法の基礎技術。


・魚群探知:魚の群れの位置を直感的に察知するスキル。動物交感スキルと組み合わせることで効果が向上する。


・海洋統率:海の流れを操り、魚を思い通りの場所に導く高度な古代技術。潮流統率とも呼ばれる。


・古代漁法:古代アルネシア海洋文明の漁師が使用していた失われた技術の総称。複数の専門技術を統合した特殊スキル。


・漁師:狩人からの転職が可能な海洋特化職業。「海への理解」という特殊条件を満たす必要がある。海洋での活動効率が大幅に向上する。

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