第十二話「優勝への道筋」
大会開始から1時間が経過した。俺は計画通り港の桟橋でコツコツとポイントを稼いでいた。
「よし、15ポイント獲得」
コモンフィッシュ10匹、シルバーダイ2匹の釣果。まずまずのスタートだ。
周りを見回すと、他の参加者たちも必死に竿を振っている。中には既にノースリーフに向かった参加者もいるようだった。
「そろそろ移動の時間かな」
満潮まであと1時間。ノースリーフでの勝負に出る頃合いだ。
船でノースリーフに向かう途中、海上で他の参加者と出会った。
「お疲れ様です!調子はどうですか?」
声をかけてきたのは、『アクア』という名前の女性プレイヤーだった。
「まあまあですね。アクアさんはいかがですか?」
「私も順調です。でも、ここからが本番ですよね」
彼女も同じタイミングでノースリーフを狙っているようだ。
「お互い頑張りましょう」
「はい!でも手は抜きませんよ」
アクアは笑顔で手を振りながら、別の釣りポイントに向かっていった。
俺は予定していた岩礁エリアに到着した。ここは以前カイトと来た場所で、ブルーマリンの実績がある。
「さて、プレミアムルアーの出番だ」
1個目のプレミアムルアーを装着する。500Gもするだけあって、見た目からして普通のルアーとは違う。美しく光る装飾が施されており、水中でも存在感がある。
ルアーを投げると、すぐに反応があった。
「おっ、早速!」
竿に伝わる手応えが今までとは明らかに違う。重く、力強い引きだ。
「これは大物だぞ」
慎重にやり取りを続ける。魚は激しく抵抗するが、俺も経験を積んでいる。焦らず、着実にリールを巻いていく。
ついに海面に魚の姿が現れた。
「うわあ、すげぇ!」
現れたのは、見たこともない美しい魚だった。全身が虹色に輝き、背びれが扇のように広がっている。
『レインボーフィンを釣り上げました!』
「レインボーフィン!」
聞いたことのない魚だった。ポイント表示を確認すると、なんと25ポイントもある。
「やったぜ!これで一気に上位に上がれる」
しかし、喜んでいる場合ではない。プレミアムルアーが壊れてしまったのだ。レア魚を釣り上げる代償として、ルアーは消耗品扱いになるらしい。
「残り2個か。慎重に使わないと」
2個目のプレミアムルアーを装着し、釣りを続ける。しかし、さっきのような大物の反応はない。
30分ほど経ったころ、突然竿が大きく曲がった。
「また来た!」
今度の引きはさらに強い。リールからジリジリと糸が出ていく。
「これはやばいかも」
魚の抵抗が激しすぎて、糸が切れそうになる。必死に竿を立てて対応するが、魚の力が勝った。
ブチン!
糸が切れて、2個目のプレミアムルアーも失った。
「あー、もったいない」
大物を逃した上に、高価なルアーまで失ってしまった。残りは1個だけだ。
「最後の1個は慎重に使おう」
しばらく普通のルアーで釣りを続けた。ブルーマリンやゴールデンタナゴなど、中級魚を着実に釣り上げていく。
大会開始から3時間が経過した。残り時間は1時間。そろそろ最後の勝負に出る時だ。
最後のプレミアムルアーを装着する。これで全てが決まる。
「頼む、大きいのを頼む」
ルアーを投げて、海底近くを狙う。深場には大型魚が潜んでいることが多い。
しばらく待っていると、重いアタリがあった。
「来た!」
今度は落ち着いて対応する。魚の動きを読み、無理をしない範囲でやり取りを続ける。
5分間の格闘の末、ついに魚を海面まで上げることができた。
「これは...」
現れたのは、巨大なマダイのような魚だった。しかし、普通のマダイとは違って全身が金色に輝いている。
『ゴールデンタイを釣り上げました!』
「ゴールデンタイ!」
ポイントを確認すると、なんと40ポイント!これまでで最高得点の魚だ。
「これで勝負になるぞ」
現在のポイントは、レインボーフィン25ポイント、ゴールデンタイ40ポイント、その他で35ポイント。合計100ポイント。
しかし、まだ油断はできない。他の参加者がどのくらいのポイントを稼いでいるか分からない。
残り30分。最後のスパートをかける時だ。
フィッシュアローに切り替えて、浅瀬の魚を狙う。時間効率を考えると、確実に獲れる小さな魚でもポイントを積み重ねた方がいい。
動物交感スキルを使って魚の群れを探し、フィッシュアローで次々と仕留めていく。
シュン、シュン、シュン!
矢が次々と魚に命中する。練習の成果で、命中率は格段に向上していた。
「よし、これで120ポイント」
残り時間5分。最後の追い込みだ。
その時、近くでアクアが大きな歓声を上げているのが聞こえた。
「やったー!大物です!」
彼女の竿も大きく曲がっている。かなりの大物のようだ。
「負けてられない」
俺も最後の一投に集中する。普通のルアーだが、これまでの経験を全て込めて投げる。
狙うは深場の一点。直感的に、そこに大物がいる気がした。
ルアーが着水し、ゆっくりと沈んでいく。海底近くに達した時、強烈なアタリがあった。
「最後に来た!」
残り時間わずかだが、この魚を逃すわけにはいかない。
全神経を集中して魚とやり取りする。時間との勝負でもある。
ついに魚を海面まで上げた瞬間、終了の合図が鳴り響いた。
「終了ー!」
間一髪だった。最後に釣り上げたのは大型のシーバスで、15ポイント。
最終的な俺のポイントは135ポイントだった。
「お疲れ様でした!」
アクアが声をかけてきた。
「お疲れ様です。結果はどうでしたか?」
「私は118ポイントでした。ウシオさんは?」
「135ポイントです」
「すごい!それは上位確実ですね」
参加者全員が港に戻り、結果発表が行われた。
「それでは、第1回アルネシア釣り選手権の結果を発表いたします」
運営スタッフが順位を読み上げていく。
「第3位、128ポイント、プレイヤー『マリン』さん」
第3位でも128ポイント。激戦だったようだ。
「第2位、132ポイント、プレイヤー『アクア』さん」
「えっ?私が2位?」
アクアが驚いている。最後に大物を釣ったのが効いたようだ。
「そして第1位は...」
俺の心臓が跳ね上がった。
「135ポイント、プレイヤー『ウシオ』さん!」
「やったー!」
思わず声を上げてしまった。まさか本当に優勝できるとは。
「おめでとうございます!優勝賞品のレア釣り具セットをお渡しします」
豪華な箱に入った釣り具セットを受け取る。中身を確認すると、高性能な釣り竿とリール、それに様々なルアーが入っていた。
「ウシオさん、おめでとうございます!」
アクアが祝福してくれた。
「ありがとうございます。アクアさんも2位、すごいじゃないですか」
「お互い頑張りましたね」
表彰台での記念撮影。人生初の釣り大会で優勝という結果に、俺は感慨深いものを感じていた。
大会終了後、カイトが駆け寄ってきた。
「ウシオ!優勝おめでとう!」
「カイトさん!ありがとうございます」
「素晴らしい釣りだった。レインボーフィンとゴールデンタイ、俺でも釣ったことがない魚だぞ」
「プレミアムルアーのおかげです。でも2個も無くしちゃいました」
「それが釣りというものだ。リスクを取らなければ、大きな成果は得られない」
確かにその通りだった。プレミアムルアーを惜しまずに使ったからこそ、優勝できたのだ。
「今日は本当にありがとうございました。カイトさんに教わったことが全部活かせました」
「いや、それは君の実力だ。現実の知識、動物交感スキル、フィッシュアロー、全てを使いこなした結果だ」
港で祝賀会が開かれ、参加者全員で釣りの話に花を咲かせた。アクアをはじめ、多くの釣り仲間ができた。
「これからもよろしくお願いします」
「こちらこそ。今度一緒に釣りに行きましょう」
夜が更けて、俺は一人で海を見つめていた。優勝という結果以上に、釣りを愛する仲間たちとの出会いが何より嬉しかった。
「海って、本当にいいな」
明日からは、また新しい挑戦が待っている。優勝で得た自信を胸に、俺はさらなる海の冒険に向かって歩み続けるのだった。
【アルネペディア】
・レインボーフィン:虹色に輝く美しいレア魚。魚体はイサキによく似た魚。プレミアムルアーで釣れることがある。25ポイントの高得点魚。
・ゴールデンタイ:全身が金色に輝く巨大なタイ。魚体はキントキダイに似ている。最高レベルのレア魚で40ポイント。プレミアムルアーでのみ釣獲可能。
・アクア:第1回アルネシア釣り選手権で2位入賞した女性プレイヤー。ウシオの釣り仲間の一人となる。
・レア釣り具セット:釣り選手権の優勝賞品。高性能な釣り竿とリール、各種ルアーが含まれる豪華セット。




