第十話「フィッシュアローの極意」
ノースリーフでの成功から三日後、俺は再びカイトと船で海に出ていた。今日の目的は、前から約束していたフィッシュアローの習得だ。
「今日は浅瀬で練習するぞ。フィッシュアローは水深2メートル以下じゃないと効果的じゃない」
カイトが船を操縦しながら説明してくれる。
「弓で魚を撃つって、どんな感じなんですか?」
「普通の射撃とは全く違う。水の屈折を計算に入れないと、狙った場所に当たらないんだ」
船はノースリーフよりも港に近い、シャローベイという浅瀬エリアに向かっていた。
「ここは水深が1〜2メートルで、フィッシュアローの練習には最適だ」
シャローベイに到着すると、確かに海底がはっきりと見える。白い砂地に海草が生え、色とりどりの魚たちが泳いでいた。
「まずは理論から教える。水中の魚を狙う時は、見た目よりも下を狙う必要がある」
カイトが実際に弓を構えて見せてくれる。
「水の屈折で、魚は実際よりも上に見えるんだ。だから、見た位置より少し下を狙う」
「なるほど」
物理の授業で習った光の屈折の話だ。現実の知識がここでも活かせる。
「それと、魚の動きを予測する必要もある。矢が飛ぶ時間を考慮して、魚が移動する先を狙うんだ」
カイトが実演してくれる。海中を泳ぐ魚に向かって弓を引き、狙いを定めて射る。
シュン!
矢が水中に入り、見事に魚に命中した。
『カイトがシーバスを射止めました』
「すげぇ!」
水中から矢と共に魚を引き上げる。体長30センチほどのシーバスが矢に刺さっている。
「これがフィッシュアローだ。釣りとは違う爽快感があるぞ」
俺も興奮して弓を構えた。
「最初は近い魚から狙え。距離が遠いほど難しくなる」
船の真下を泳ぐ魚を狙う。見た目よりも下を狙って...
シュン!
矢は魚の横を素通りしていった。
「あー、外れた」
「最初はそんなもんだ。屈折の感覚を掴むまで時間がかかる」
二射目、三射目も外れた。水の屈折を計算するのは想像以上に難しい。
「ウシオ、動物交感スキルは使えないのか?」
「あ、そうですね」
動物交感スキルを発動してみる。すると、近くの魚たちの動きがなんとなく予測できるようになった。
「お、これは便利だ」
魚の移動パターンが読めると、狙いを定めやすくなる。
四射目で、ついに小さな魚に命中した。
『フラットフィッシュを射止めました』
『フィッシュアロー Lv.1を習得しました』
「やったぜ!」
水中から矢と魚を引き上げる。小さいながらも、自分で射止めた魚は嬉しかった。
「よし、スキル習得おめでとう。これで基本は覚えたな」
「もっと練習したいです」
「そのやる気だ。フィッシュアローは奥が深いからな」
その後、俺は夢中になってフィッシュアローの練習を続けた。スキルが上がるにつれて、命中率も向上していく。
「狙うのは動きの鈍い魚から始めろ。フラットフィッシュやボトムフィーダーがおすすめだ」
カイトのアドバイス通り、海底近くにいる魚を狙う。これらの魚は動きが予測しやすく、フィッシュアローの練習に最適だった。
「次は群れで泳ぐ魚に挑戦してみろ」
少し離れた場所で、小魚の群れが泳いでいる。
「群れの中の一匹を狙うのは難しそうですね」
「コツがある。群れの進行方向を読んで、先頭の魚を狙うんだ」
動物交感スキルで群れの動きを読む。魚たちは一定のパターンで移動しているようだ。
狙いを定めて矢を放つ。
シュン!
見事に群れの一匹に命中した。
『スクールフィッシュを射止めました』
「すごいじゃないか。動物交感との組み合わせが効いてるな」
カイトが感心してくれた。
「これ、めちゃくちゃ面白いです」
フィッシュアローの爽快感は、普通の釣りとは全く違った。瞬間的な集中力と正確性が求められる、まさに狩人らしい技術だ。
「今度は大型魚に挑戦してみるか?」
少し深いところに、大きな影が見える。
「あれはシーバスですね」
「ああ。大型魚は動きが素早いから、相当な技術が必要だ」
シーバスは体長40センチほどで、機敏に泳ぎ回っている。
「動きを読んで、先回りして狙うんだ」
動物交感スキルを最大限に活用する。シーバスの思考パターンを読み取り、次の行動を予測する。
右に向かう...いや、急に左に曲がる!
その瞬間を狙って矢を放った。
シュン!
矢がシーバスの側面に命中した。
『シーバスを射止めました』
『フィッシュアロー スキルが上昇しました』
「やった!大型魚を射止めた!」
「素晴らしい!その調子だ」
水中からシーバスを引き上げる。立派な魚で、釣りで獲るのとはまた違った達成感があった。
「フィッシュアローと動物交感の組み合わせは強力だな。君独自のスタイルができそうだ」
「海洋狩人として、新しい道を切り拓けそうです」
その後も練習を続け、様々な魚種を射止めることができた。フラットフィッシュ、ボトムフィーダー、スクールフィッシュ、そしてシーバス。
「今日は大成功だったな」
船に戻る頃には、俺のフィッシュアロー Lv.は3まで上がっていた。
「これで君も立派なフィッシュアロー使いだ。釣りと使い分けることで、海での活動の幅が広がるぞ」
「はい!ありがとうございました」
帰り道、俺は今日習得した技術について考えていた。フィッシュアローは単なる狩猟技術ではない。海洋環境への深い理解と、生物との対話が必要な、まさに海洋狩人にふさわしいスキルだった。
「現実でも、昔の漁師さんは弓で魚を獲ってたのかな」
そんなことを考えながら、俺は新しい技術への期待で胸を膨らませていた。
「明日は掲示板をチェックしてみよう。面白いクエストがあるかもしれない」
港の灯りが近づく中、俺は次の冒険への想いを馳せていた。フィッシュアローという新しい武器を手に入れた今、海での可能性は無限に広がっている気がした。
【アルネペディア】
・シャローベイ:オルディア港近郊の浅瀬エリア。水深1〜2メートルでフィッシュアロー練習に最適。白い砂地と海草が特徴。
・シーバス:浅瀬に生息する中型魚。体長30〜40センチで機敏な動きをする。フィッシュアローの練習対象として人気。
・フラットフィッシュ:海底近くに住む平たい魚。動きが鈍くフィッシュアロー初心者向け。
・ボトムフィーダー:海底で餌を探す魚の総称。動きが予測しやすくフィッシュアロー練習に適している。
・スクールフィッシュ:群れで行動する小魚。群れの動きを読むことでフィッシュアローの技術向上に役立つ。




