23.提案
「やあ、君がアルブレヒトくんかな。」
「はい、初めまして。あなたが北東の護衛騎士の……」
「エリアス・シュルツだ。突然呼び出してすまなかったね。さあ、座って。」
手紙に書いてあった日時に、指定された街のカフェに行くと、そこには自分より背の高い、父親と同じくらいに見える男性が待っていた。
アルブレヒトのことをみると、向こうから声をかけてきた。
「早速なんだが、今日は君に提案があって来てもらったんだ。」
「提案?」
「君、私の息子になる気はないかい?」
「息子……はい?」
エリアスが言っている意味が分からず、アルブレヒトが固まっている間に、注文していたコーヒーが届いた。
「はは、驚かせてしまったね。だが、言葉の通りだ。君に私の息子になってほしい。」
「す、すみません。もう少し詳しく説明していただけませんか。」
「君、この前北東の魔術コンテストに術式を応募したろう。私はその審査員をやっていてね。君の術式、とても素晴らしかったよ。大気の循環を利用した天候の掌握システム。あんなに合理的で美しい術式は見たことが無い。」
「……ありがとうございます。」
話が見えてきた。
「君のその才能を見込んで、私の後を継いで護衛騎士になってほしいんだ。」
つまり、エリアスは魔術コンテストで術式を見て、アルブレヒトのことをスカウトしに来たのだ。
護衛騎士は、16方位を司る家の者にしかできない。
アルブレヒトが北東の護衛騎士になるには、シュルツ家の人間にならなければならないということだ。
「話は理解しましたが、シュルツ家には確か跡を継ぐ予定の娘さんがいますよね?」
北東のシュルツ家の一人娘のうわさは、遠く離れた南にまで流れてきていた。
なんでも、魔術の才能が無く、とんだ落ちこぼれだという。
「そうだ。彼女……サラの代わりに、護衛騎士を継いでほしいんだ。」
エリアスは一瞬辛そうな顔をしたが、すぐに笑顔に戻った。
「君はハルトマン家の三男なのだろう。護衛騎士になるのは大抵長男だ。だが、その才能は放っておくにはあまりにも惜しい。どうか、検討してみてくれ。次に会ったとき、返事を聞かせてほしい。」
伝票を持って立ち去ろうとしたエリアスをアルブレヒトは呼び止めた。
「待ってください。」
アルブレヒトも椅子から立った。
「その話、受けさせてください。」
アルブレヒトは迷わずそう答えていた。
____________________
「ハルトマン家から来ました。アルブレヒトです。」
初めてシュルツ家に足を踏み入れたときには、もう手続きが済んでアルブレヒト・シュルツになっていた。だが、まだ名乗るには居心地が悪い。
義姉になったサラは、噂通りぼんやりとした印象だった。
護衛騎士になれるのは願ったりかなったりだが、この年上の女と生活を送らないといけないことだけが気がかりだった。勘違いされないようにきつく睨みつける。
それ以外は、ずっと家を出たかったアルブレヒトにとっては好都合だった。
サラとはできるだけ接触しないようにしていたが、シュルツ家に来てから一週間、サラの魔力欠乏事件が起こった。
心底嫌だったが、アルブレヒトはサラに唾液で魔力を分け与える他なかった。
その後、家で顔を合わせるとサラがちらちらとこちらを見ている気配がした。部屋の前をうろつかれることもあった。本人は気づかれていないと思っているようだったが、バレバレだった。少しでもそれに応じれば、昔言い寄ってきた女子のように媚びを売ってくるに違いない。
アルブレヒトは徹底的に無視した。




