19.再会
「それでは行ってきます。」
「サラ、いつでも帰っておいで。」
「ふふ、お父様もいつでも遊びに来てくださいね。アルも。」
「……いってらっしゃい。」
「うん!手紙書くからね。」
涙目の父と、無表情ながらどこか寂し気なアルブレヒトに見送られ、サラは22年間暮らした家に別れを告げた。
少しの不安はある。しかし、不思議と上手くいく予感がした。
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サラがシュルツ家を出て三年が経った。
魔術支部局での仕事は想像以上に楽しかった。
北東の街から遠く離れた魔術支部局に自分を知る者がいなくて、サラは息がしやすかった。自分への先入観無しで人間関係を構築する初めての体験だった。
祖母が言った通り魔術支部局では地力を利用した研究を行っていた。
地力を魔術に利用する話を聞いたことが無かったサラだったが、まだ実験段階の話で、サラが来た時点では実用に至っていなかったのだ。
その実用化プロジェクトがサラの最初の仕事になった。
今まで学んできたことや自分の魔力欠乏になりやすい経験が、研究に活きていることを実感した。難しいこともたくさんあったが、それを解決する楽しさを知った。
やりたいことが沢山あって、いくら時間があっても足りない。
同僚も同じく魔術の研究に没頭する人間ばかりで、サラもどんどん研究にのめり込んだ。自分の好きなことを同僚と語り合うのも楽しかった。
こんな経験ができたのも、この仕事を紹介してくれた祖母のおかげだ。サラは感謝してもしきれなかった。
家を出てからサラは一度もシュルツ家に帰っていなかった。暇ができたら帰ろうとしたが、なかなか仕事の区切りがつかずにいた。
父とアルブレヒトも護衛騎士の仕事や学校が忙しく、なんとか時間を見つけてこちらに来ようとしたが、そんなときに限って山の崩落があってやむを得ず断念した。
「すごいなぁ、アル。」
出勤前、朝食代わりの紅茶をすすりながら、新聞を読む。
一人暮らしを始めてから続くサラの日課だ。
『アルブレヒト・シュルツ、北東の護衛騎士に就任』の見出しで、記憶より少し大人びたアルブレヒトの写真が新聞の一面を飾っている。
アルブレヒトは現在魔術大学校の三年生で、卒業まであと一年ある。しかし、本人たっての希望により前倒しで護衛騎士を引き継ぐことになったことを、定期的に送られてくる父からの手紙で知った。
父も肩の荷が下りたらしいが、これからはアルブレヒトのサポートに徹すると意気込んでいた。
手紙のやり取りはよくしていたので、会えなくてもお互いの近況は把握していた。
だが、そろそろ実家に帰って家族の顔が見たくなってきたかもしれない。
最近取り組んでいたプロジェクトも一段落したことだし、アルブレヒトの護衛騎士就任は直接祝いたい。
アルブレヒトの記事を丁寧に切り抜いて壁に貼ると、サラは今日も魔術支部局に出勤した。
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「今日は残り物消費しないと。いつ作ったやつだっけ。」
暗くなった帰り道を一人サラは歩いていた。
サラが住む一人暮らしの家は、職場からほど近いアパートメントの二階だ。
少し古いが、広さがあって気に入っていた。
冷蔵庫の中身を思い出しながらアパートメントに近づいていくと、なにやら見慣れない人影がエントランスの壁にもたれて佇んでいた。
暗くてよく見えないが、背が高い男性だった。
このアパートメントでは女性としかすれ違ったことが無かったので、サラは身構えた。
できるだけ距離を取り、刺激しないようにそっと過ぎ去ろうとした。
「こんばんは……ひっ!?」
しかし。その男性はサラの前に立ちはだかった。
「僕のこと忘れてしまったんですか。」
サラはそこでようやく男性の顔を見た。
「ア、アル!?」
実に三年ぶりの義弟との再会だった。




