14.仲間外れ
その日の夜、サラは父の書斎に向かっていた。
もうとっくに消灯の時間で、廊下は暗い。サラはランプ片手に音を立てないように階段を降りた。
小さい時から、落ち込んで眠れない夜は父の書斎を訪れ、なんてことない会話をする。
父もなにか聞いてくることなく、ただサラの話に耳を傾けてくれる。
サラはその時間が好きだった。
昼間の集会での出来事や、アルブレヒトに頼りきりの状況のせいで、ネガティブな言葉ばかり考えてしまいなかなか寝付けなかった。
父が起きていればいいなと思いつつ、書斎の前にたどり着くと、少しドアが開いていて中から光が漏れていた。
どうやらまだ起きているようだ。
「お父様、今大丈夫で……」
ドアノブに手をかけたとき、中から会話する声が聞こえてきた。
そっと隙間から中をのぞくと、寝間着姿の父とアルブレヒトが、書類を片手に何やら話し込んでいた。二人ともサラの存在に気づいていないようだ。アルブレヒトの寝間着姿は初めて見た。
最近またアルブレヒトたちが忙しくしていたのは知っていたが、こんな時間まで作業しているのは知らなかった。
会話の内容までは聞こえなかったが、父とアルブレヒトは真剣な表情で話し込んでいる。
かと思えば、和やかな雰囲気になる。
父が冗談を言ったのか、アルブレヒトが微笑んでいた。
「!」
サラといるときのアルブレヒトはいつも無表情で不機嫌そうで、笑顔なんて見たことが無かった。
サラは驚いて、ドアから遠ざかった。
二人に気づかれないように音を立てずに書斎から離れると、自分の部屋に戻った。
ベッドに寝転がる。
「お父様たち、とても仲がよさそうだった。」
アルブレヒトがシュルツ家に馴染んでいるのを感じて、サラは嬉しくなった。
同時に、胸が苦しくなった。
「あんな顔、見たことない。」
アルブレヒトの笑顔を思い出す。
あんなに柔らかい表情ができるなんて、知らなかった。
仲良くなれたと思っていたのはサラの勘違いだったと思った。
魔力を分けてくれる時もどこか意地悪で、あれは嫌がらせだったのかもしれない。
ざわざわした心はなかなか落ち着かず、サラは永遠のような時間を明け方まで過ごした。
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次の日の朝、いつもどおりサラは父とアルブレヒトと三人で食卓を囲んでいた。
「サラ、昨日は眠れなかったのか?クマができている。」
「やだ、本当ですか?今読んでる本が面白くてつい夜更かししてしまって。」
サラは隠すように目元をこすった。結局昨日は眠れなかった。
「それより、今日は雪が降るかもしれないみたいですよ。」
「そうか、通りで昨日寒かったわけだ。今年は早いな。アル、防寒具は持っているか。」
「いえ、まだです。」
「とりあえず私のを使いなさい。今度買いそろえよう。」
「ありがとうございます。」
朝食をとりおわると、父は仕事、アルブレヒトは学校に向かった。
サラもあと少しで家を出る。今日はゼミで論文の輪読会があるのだ。
マフラーと手袋で防寒はしっかりだ。
それと、傘も忘れずに……。
アルブレヒトは傘を持っただろうか?
南の出身だから、もしかすると雪は初めてかもしれない。
この時期はまだ気温が下がりきっておらずべちゃべちゃとした雪が降るので、傘を差さずに歩けばすごく濡れる。
アルブレヒトが風邪をひくといけない。
サラは傘を二本持って家を出た。




