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4-1 日曜日の冒険と、宝の地図をヴァルにもたせたこと


 日曜日に地図をもって出かけた冒険はもちろん魔法の冒険だった。僕たちは緑の麦畑を海にみたてて、ドラゴンの親戚で雲を吐くという龍をさがしに遠い東の水の国をめざして海賊船でのりだした。

 はてしない旅で、途中でセイレーンの歌声にあって船がしずみそうになったり、渦の底からオバケダコが出てきて闘ったりした。

 何か月もかかってようやく目的地にたどりついたら、今度は背中のまがったあやしげなカエル男にだまされて、僕たちは命からがら逃げだして、やっとのことで海賊船に転がりこんだ。カエル男たちは塩水がヒフにしみて痛いので、海までは追ってこられなかった。

 「危なかったな」

 息を切らして、愉快そうにヴァルが言った。龍のところへ案内してくれるというのを、僕はあやしいから断ろうって言ったのに。ヴァルは罠にはまるのが好きだった。

 「あいつは河童だ。水の妖怪ヴォドニークの親戚だ」

 「龍には会えなかったね」

 「まあ、いいさ」

 ヴァルは甲板に寝そべって僕の地図を見ていた。それがこのあたりのじゃなくて本物の世界地図だったらよかったのかもしれない。ヴァルが遊びながら地図の見かたを勉強しているって、僕は気がつかなかった。


   ***


 日曜日の冒険は、僕にとっても困りごとの引き金になった。礼拝に出ないでヴァルと遊んでいたという話が広まって、それが村の子たちと僕との間に橋を渡してしまった。海賊が船を襲うときに板を渡したりはしごをおろしたりするみたいに。

 ある朝、学校に行ったら僕のつくえの上に大きなネズミの死骸が置いてあった。誰かがピューッと口笛をふいて、ざわざわしていた教室がしんとしずまりかえった。

 「誰のしわざ?」

 僕はみんなの顔を見渡した。みんな僕がどうするのか見ている。誰も手をあげない。

 そこへ先生が入ってきて、僕のつくえを見てキャッと悲鳴をあげた。ついでに誰がやったのかきいて犯人をとっちめてくれればいいのに、先生は僕に「はやくかたづけなさい」と命令しただけだった。

 僕は、ハンカチで触るのだって嫌だったけど、しかたがないからハンカチを出してかわいそうなそいつのしっぽをつまみ上げて、みんなのうめき声をあびながら窓のほうへ運び、外へ放り出した。うす汚いかたまりはガサッと音をたてて庭木の中へ消えた。

 席に戻ってみて、ネズミの下にしかれていたメッセージが目にとまった。つくえの上に白墨で、何人かの字で書かれていた。


 「きみのペットへ」

 「黒魔術のいけにえに」……


 僕はぐっとこらえて椅子に座った。先生が話をはじめていたけれど、誰も聞いていなかった。僕がくやしがるのを見ておもしろがってる。泣くか怒りだすのを待っている。

 ヴァルはペットじゃない。ペットじゃないし、あんなものは食べない。ヴァルは炎を食べるんだ。それに僕たちは黒魔術なんかしない。ヴァルは遊びでそういう言葉を口にすることはあっても、こわがりだから本当に残酷なことなんかできやしないんだ。

 くやしくて、今すぐつくえをひっくり返して学校を飛びだしたかった。でも、それじゃ僕の負けになるから我慢した。誰の字か、つきとめてやる。でも、犯人をつきとめた後はどうする?

 僕は前の学校でのことを思い出した。復讐してやりたいけど、うまい方法なんかないような気がして、ずっとムカムカしながら、その日の授業をやり過ごした。

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