3-5 地図を見てヴァルが思いつくことと、雷の音で僕が思い出すこと
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「ハンス、これを見ろ」
ローマ軍をおいつめているうちに雨がふってきて、ぬれて帰って服をかわかしているとヴァルがどこからか巻紙をもってきて僕の前に広げた。
「地図だ。宝の地図を手に入れた」
「それ、僕のだよ」
「日曜日に冒険に出よう」
パチパチはぜる暖炉の火みたいな金色の目が僕を見つめる。
「どこまで行くの?」
「東の果ての黄金の国だ」
そのとき空が裂けるような音がして、大きな雷が近くに落ちた。
僕は急にてのひらがあたたかくなったような気がして、あることを思い出した。雷が鳴るとイマヌエルが叫ぶ。叫び声が近くなってきて、通りすがりに僕を見つけると、まっすぐに来て、何も言わずに僕の両手を取って、僕のてのひらで耳をふさぐ。最初に見つけるのがお母さんならお母さんの手で、カミラさんならカミラさんの手で、イマヌエルは耳をふさいだ。色が白くて彫刻みたいに冷たそうなのに、兄さんの頭は熱かった。
「こわいのか?」
声がしてわれにかえると、ヴァルが僕を見てにやにやしていた。
「ちがうよ」
「こわいんだな。こわいんだ」
ちがうと言えば言うほどヴァルは有頂天になってからかう。しつこいんで
「ほら、ヴァル、きみもまだぬれてるよ」
って僕が使ってたタオルでつかまえてめちゃくちゃにこすってやったら、口では
「やめろー」
って言いながらくすぐったがってのどを鳴らして笑った。
その頃が一番たのしかった。ヴァルがまだ小さくて、僕とだけ遊んでくれたから。