3-1 僕がお母さんに連れられておばさんの家に来た日
僕が家族と離れて暮らすようになったわけは、言いにくいけれど、しばらくおばさんにあずかってもらおうというのは、お母さんの考えだった。
「ここの生活はハンスには合わないのよ」
って、僕のいないところでお父さんに話していたのを、僕は聞いた。
「このことについてだけは、イマヌエルが特別だってことを私たち二人とも忘れてしまっていたのね。田舎でのびのび遊べば、きっと明るい子になるわ」
お父さんはそのときすごく怒っていたから、何も言わなかった。
それから半月もしないうちに、僕は生まれてはじめての汽車に乗ってお母さんのふるさとへ連れられてきた。夕方の駅にはおばさんが腕組みをして一人で立っていた。
「姉さん、この子がハンスよ」
お母さんは僕を前に出して言った。
「どうぞよろしくね」
「もらうわけじゃないのよ」
おばさんは一言そう返して、僕を頭のてっぺんから爪先まで見下ろした。僕はすばやく下を向いて、この人がお母さんのお姉さんだなんて信じられないな、と思った。
「元気でね、ハンス。大丈夫よ、ここには堅苦しいことなんか何もないの。好きなだけお外で遊びなさい」
お母さんは僕にそう言ったけれど、おばさんはちがう考えみたいだった。
「あなたのお母さんは十五で都会へ出てしまったから忘れたようだけど」
と、駅で別れて馬車をとめてあるところまで行くあいだに、つまりはじめに、おばさんは僕に言った。
「ここは都会みたいに自由ではないわよ。あなたがネコを一匹ひろったって、たちまち村じゅうに知れわたりますからね」