121-125
121パン
空の青さに
色鉛筆で黄色に
塗りたくる
朝のパン
かじったのは朝との決別
これから
仕事やら学校やらが
はじまる
おはよう
黄色の空に
緑の海
こんにちは
透き通った街
リンのいる街だ
122また夏
初夏といっても
はじめてではないから
よう、また夏
夏は春を処刑台に送り
春は夏に恋をする
秋は音楽を用意する会場
冬は静かな音を降らせる
そして
どれでもない季節に
ぼくはいる
123切り絵
青い女性の
美しい切り絵が
切手のように
壁紙のように
大きかったり
小さかったり
その感覚に
謎めいた安心感があって
空間は不定形容詞で漂い
定規は単位を落とし
3次元が2次元で
1次元がにじんでいる
124彫刻
形相の彫刻
彫刻家の真顔
笑う観衆
それでもなお
彫刻の男は
形相をやめられない
留め置かれた世界に
取り残されているのだから
観衆は飽きて去っていく
彫刻家は次のアイデアに忙しい
ぽつんとある青銅の彫像は
部屋のただの飾りで置き物だから
息を吐く
125読書
慣性の法則に逆らって
潮流に逆らって
それでもぼくはいて
ぼくはながれている
なにかにながれているが
それがなにかは
誰も知らない
五線譜がたなびく
音符の位置がズレて
そのズレに管弦楽団がいて
小さな演奏会を開いて
開いた本が閉じられる
そうして読書が始まる