また まだ
ここで終わりです。
なんでもねえよ、とわらって黒猫をつかまえあげて顔の前にぶらさげて、猫をゆらして匂いをかいだ。
煙の匂いしかしない猫が後ろ脚をかいて、やめろ、と身をよじって縁側から逃げようと走ったのに、ふいにとまる。
みゃあと下の方から鳴き声がして、沓脱からとびあがった黒猫が『乾物屋』の前にきた。
『乾物屋』のほうは、いちど部屋をふりかえってなにか言いたそうにしてから、どたり、とそこで横になる。
すると、そこによってきた黒猫が、『乾物屋』の毛づくろいをはじめた。
「ああ、こうやってみると、クロももう、 カンジュウロウとおなじほどの大きさだねえ 」
セイベイがうれしそうにそれをみやる。
どうやら乾物屋がひろった子猫は、あいての『中身』がたとえ『じじい』であっても関係なく、なついているようだ。
ひびのいって割れたような声が、『 なめたってこの匂いはとれねえよ 』と困ったようにクロにいうのがきこえた。
ヒコイチはそれがきこえなかったふりをして、《あられ餅》をまとめてくちへほうりこんで、庭の池をながめる。
ほんとうは、子猫になめられるそのようすを、『しっぽり』できてうれしかろうと、からかいの声をかけたかったのだが、あられといっしょにのみこんだ。
セイベイもそれをめにしてるだろうに、陽がまたのびてきたねエ、と、むこうにある祠をながめながらお茶をすする。
ヒコイチが、ああ、とうなずくまえに、どちらかの猫が、みゃあ、と鳴いた。
「 ―― そういえばヒコ、新茶の季節だから、また《元締め》にたのんでくれないかい」
「そうだなあ。まあ、言ってはみるが、どうかわからねえぜ・・・」
いいながら、またそんな季節になったのかと庭木の青さにあらためてきづく。
また、しばらくは、
いや
まだ、しばらくは、
こんな、なにもない日がつづくようだ。
目をとめてくださった方、ありがとうございました! よろしければ、またのぞいてやってください。。。