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見たからしってる
二、
そりゃあながいこといるんですから、それぐらいは知っています、とサネが餅のなくなった柏の葉をつまみながらはなしだした。
「 大旦那様がいらしたころに、セイイチ坊ちゃまがお生まれになってお祝いなさったときに、ご先祖様をお祀りする座をおつくりになって、そこに、『家宝』の箱を置くようにいわれました」
ああ、とセイベイがうなずき、のぞいたかい?とほほえんで湯呑を両手でつつむ。
はい、ともなんともこたえないサネは、わらいながら、あのときの奉公人はみんな、とヒコイチの食べ終えた餅の葉もつまみあげた。
「ヒコさんは、あれをみたことあるかい?」
「いいや」
これにサネはすこし勝ったように口をすぼめ、あれは《天女の羽衣》だよ、とうなずく。
さきほどセイベイにただの《紗》の着物だときいていたヒコイチは、それを言おうかどうか迷ったが、サネはすぐに「遠くの国の天女のようなお人のお召し物ってことだよ」とわかったような顔でつけたした。