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猫 煤(スス)だらけ
「てめえ・・・、このはなしに、どういう《天女》がでてくるか知ってやがったな?」
『 知ってるもなにも、おめえらの『一座』じゃあ、袖をひいたり、すがってくる色っぽい女だろうと、《役者》はみんな化け物だろう?おれのでる幕はねえだろよ 』
いって身をふったそのからだが、なんだか煙くさい。
「おいなんだ?どこかの火事場から逃げてきたんじゃねえだろうな?」
そこでセイベイがわらいながら、カンジュウロウはどうしても《天女》にだけは会いたかったらしくてね、とその背中をなでた。
「 ―― 先生が『はいるな』と言ったのに、お坊様におさめるまえの箪笥にはいってみたんだよ」
「はあ?」
『 そうじゃあねえよオ。 くらくってせまくって、心地いいだろうと思ってすこし休もうとおもったんだがな、 ―― でられなくなった 』
先生の目をぬすみはいってみた箪笥の扉は勝手にしまり、夢にみたのは燃え上がる火で、さけんであばれまわる音にきづいたダイキチが、だしてやれば、あの箪笥とおなじように煤だらけになっていたという。