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中から逃げぬよう
「『逃げないように』って、あの枕の中からかい?」
きいてから、天女が舞っていた『夢の中』の景色をおもいだす。
あのときの、やつれたヘイジの様子も。
あそこにまだ、逃げられない、ほかの男もいたのか?
ヘイジのように、よびこまれた男か、それとも、それは、黒い髪の異国の男か・・・。
地獄でも極楽でもない、『枕の中』
「釘をうったのとは別のひとが、またあの《紗》をつくってかけたらしいから、《まじない》が、さらによくないものになったらしいが・・・、先生もダイキチさんも、それいじょうは話してくれなかったよ」 まあ、ヘイジさんもかえってきたんだし、あの枕もないのだしね、とお茶をのんだ。
なんにせよ ―― 、
「いやな枕だぜ」
感触をおもいだした足の裏をはらい、逆の手でつまんだ《あられ餅》をくちへほうりこむ。