魂をいれる
ヒコイチには、暗闇で髪を一本一本つまんでゆく男のすがたが浮かんで、頭をふった。
《あの場所》にでてきたのは異国の女だったはずだ。
あれが髪の持ち主だろうか。
「・・・いや、とにかくよオ、あの枕ぜんぶに《まじない》がかけてあったんじゃねえのか?布枕を木枕にうちつけるあのつくりじたい、なんだかおかしいもんだった」
それとも異国の枕ってのはああいうもんかい、とヒコイチはサネがだしてくれていたお茶に手をつける。
サネは今日も、甥のことを助けてくれたとヒコイチに礼をいって、お茶うけに菓子までつけてくれた。
ヒコイチとしては、どこかうしろめたく、その《あられ餅》をつまむ。
セイベイがそうだねえ、と首をかたむけ、唐のほうでは『陶器の枕』があるっていうのはむかしきいたよ、とじぶんの頭をなでる。
「 頭を冷やすのがいいらしときいたが、どうなのかねえ。 まあ、枕じたいが、《魂をいれる蔵》だと考えられてたっていうのもきいたが、・・・・うん、それはあるかもしれない」
めずらしく渋い顔で膝から猫をどかすと、どうして布の枕をうちつけてあったかきいたかい?と湯呑に手をのばす。