63/71
手で
「『そんな気が』って、じいさんもとうとう、ダイキチさんみたいに、なにかみえるようにでもなったかい?」
いつものように裏の木戸から入り、縁側に片脚と尻をあずけていたヒコイチは、もうかた脚もあげて、すわりなおした。
セイベイは池をみたまま、ぼつりとこぼした。
「・・・あの、《紗》の織物のようになった髪は、 ―― 手で織っていったものだろう」
「手で、か・・・まあ、そうか・・・」
いつもとはちがう寒気におそわれる。
「そうさ。《まじない》をつかったからといって、勝手にあんな布のようにはならないだろう? 布って言うのは縦と横の糸をからませないとならない。しかもあんなもじり織なんて・・・。 あの細い髪をつまんで、横糸にしたものにかけてよって布のようにしあげたんだ。手でやらないと髪は切れるだろうし、やはり、そこが《念》をのせる《まじない》なのかねえ」
めずらしくやりきれないような息をつく。