天女の羽衣(はごろも)
「なんでエ。この店に《化け物》でも住んでるってうわさでもでてンのか?」
いいながら、年寄と目をかわす。
なにしろそれは半分本当だからだ。
この店にいつく黒猫のうち一匹は、その《中身》が、死んだはずの乾物屋のカンジュウロウで、セイベイと息子のもめ事をおさめるのに『口』をだし、いまだに居座って、『しゃべり』つづけている。
そうだ。
あの猫がしゃべるのを知っているのは、セイベイとヒコイチ、あとはすこし『ふしぎ』を知っている人たちで、そういうはなしを集めている一条のぼっちゃまこと、一条ノブタカは、黒猫がしゃべるというはなしは聞いているが、まだしゃべるのを見たことはない。
ただ前に、坊ちゃまのところの手伝いの婆さんには、おかしな猫だと見抜かれて、『ネコマタ』と勘違いされたこともある。
また、だれかに見抜かれたか、黒猫がしゃべるのを見聞きされたか、とヒコイチはおもったのだが、サネは大きく手をふりそんなもんあるわけない、といいきってから、「ぬのが」とひと息いれ、セイベイをみた。
「 ―― 布が、・・・天女の羽衣だっていうんですよ。 その、 ―― 枕が」
「『天女のハゴロモ』? そりゃ、おめえ・・・」ヒコイチも、セイベイをみた。
ふたりに顔をむけられた年寄が、なんとも困ったような楽しんでいるような顔で、こりゃ、柏餅でも食べながらきこうかねえ、とヒコイチが脇においたままの包みをさした。