ずろり
首をかたむけた先生がすこし思案したあと、あ、となにかおもいついたように顔をあげた。
「ヘイジさん、ヘイジさん、おじいさまが、おまえさまに申し訳ないとおおせでしたよ」
『ヘイジさん、ヘイジさん、あんたのじいさんが、すまねえっていってたぜ』
これに、目だけぎょろりとしていたヘイジの顔が、とたんにかわった。
「ヘイジさんに黙って、勝手にはなしをすすめて悪かったと」
『ヘイジさんに黙って、勝手にはなしをすすめて悪かったってなあ』
「 な、・・・そりゃたしかに、ガキのころは腹もたったし嫌だったが、・・・おれはじいさまのおかげで、職人として生きる術を学べたんだ。いきなり箪笥職人になってたら、きっとくじけて、続けていられなかった」
「ヘイジさん、そのおじいさまが、いまもずっとみていらっしゃいますよ」
『ヘイジさん、じいさんは、ずっといまでもあんたをみてるぜ』
「ああ、うん、よく、そう感じることがある。じいさまとは、最後、けんかしたままで、すぐにあの世へいってしまったから・・・おれは、・・・ずっと、もうしわけない気持ちのままだ・・・」
ヘイジが杯を下におくと、肩にささっていた髪が、ずろり、と抜けて引いていった。