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糸じゃねえ
糸じゃねえ・・・こりゃ髪だ・・・ってことは・・・
「セイベイさんも、うすうすは気づいておられたようでございますが、これは、異国のかたの髪でございましょう。わたくしたちの黒い髪と違い、いろが抜けているかのようにみえますが、陽にあたるとほんとうに金のように美しいものでございますねえ。てざわりも、やわらかくて、ほそいので、これをふつうに織るなどは無理でしょうから、やはり、あの《紗》は、なにかのまじないがかけてあるのでしょうねえ。 あら、ヒコイチさん、平気だといったでしょうに」
気色が悪いのと怖いのとで、すこしでも触れるのを減らそうと足を交互に立つのをわらわれる。
「 ―― ですが、あのヘイジさんは、みてのとおり右側の顔、肩、手に脇腹と、もたれかかった《髪》がはいりこんでいるようですから、むりにひきはなすと、・・・きっと、よくないでしょうねえ・・・」