52/71
天女のもてなし
「ヘイジさん、なにをしていなさるので?」
『ヘイジさん、なにをしていなさるんンで?』
また、『先生』がきくのに、かってにヒコイチの声がかさなった。
「 みてわかりましょう?このおれが、天女に、もてなされてるんです」
「ヘイジさん、どこに『天女』がおりますか?」
『ヘイジさん、どこに『天女』がいるンです?』
「 おれの横で、ほれ、こうして手をつないで、しなだれかかってますでしょう?」
たしかに、しなだれかかっている《モノ》はみえた。
だが、それは、どうみても『天女』ではない。
ヘイジは杯をかかげて『天女』がしなだれかかっているというほうへ、じぶんのからだもかたむけた。
「なんだい、よせやい。 おまえとはなれてどこかへゆくわけないだろう?」
そう笑うヘイジの顔は、布団に寝ているヘイジとちがい、ひどいやつれようだ。
髪も髭ものび、肉のおちた手足の爪が、いやにながくのびていて目につく。
ひと月というよりも、もうかなりながいこと時がたっているようにみえ、削げ落ちた頬や青白い肌に、目だけがぎらぎらと精気に満ちて、ヒコイチはなんだか嫌だった。