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迎えはいらぬ
七、
どこからかわらいごえがひびいてきて、つながった手をひいた『先生』がヒコイチの肩さきで、「ヒコイチさんはしゃべらないでくださいな」とささやいた。
そこで、すう、と息をすった先生が、大きく口をひらきよばわる。
「ヘイジさん、ヘイジさん、むかえにきました」
『ヘイジさん、ヘイジサン、むかえにきやした』
おどろいたことに、『先生』のくちからでた声とはべつに、しゃべってもいないおのれの汚い声がカスミのなかにひびきわたってヒコイチはおどろく。
「『むかえ』?いやいや、そんなものたのんでおりません」
どこからか男の声が返ったとき、ただよっていたカスミが、さあ、っとひらけた。
「 っ 」
ヒコイチはでそうになる声をこらえた。
カスミがはれたその場は黄金色にかがやく岡のようで、むこうのほうに、着物のあわせも裾もだらしなくひろげ、片膝をたてたヘイジが座っている。立てた膝の上におく左手には金の杯を持ち、そばには螺鈿細工のほどこされた膳に、みたこともないものをのせた小さな皿がたくさんならんでいる。
そして、そのヘイジの右側には ――