手に手をとって
「 こりゃあ、 あの、ろうそくに経かいた坊さんですかい?」
ヒコイチの問いに、ダイキチはただにこりとして、障子とふすまがある三面にその巻紙をひろげて置いた。
「あとは、この押し入れをどういたしましょうか」
先生がすこし首をまげてふすまをひらく。
すると、そこから、ふうあり、と白いもやがあふれでた。
ああ、ここがつながっているようで、と先生とダイキチがうなずきあって、ヒコイチをみた。
「ささ、ヒコイチさん、ここからなら、入って出てきやすい」
「いや、ダイキチさん、・・・どこに、はいって出るって?」
知りたくもないヒコイチの手を、ひやりとした先生のやわらかい手がきゅっとにぎる。
「なんだか、《手に手をとって》の、出奔場面のようでございますねえ」
ころころと先生がうれしそうにわらう。
あきれとあきらめ半分半分のヒコイチも、つられてわらった。
「ほんとの芝居ではこういうとき『地獄の果てまで』とかいうんだろうが、そりゃアごめんだ」
「ヒコイチさん、ゆきさきは地獄ではなく、極楽のほうに近い景色かもしれません」
「は?どういう ―― 」 ことですかい、 ときく声は、
真っ白なカスミに とけて 消えてしまった。