みんな泣くとこ
いきなり姉がつれてきたお店の大旦那と、あやしい年寄の坊主たちがあがりこんできたうえに、こんな大音声で嘘くさいことをならべられ、そりゃ腹も立つだろうとヒコイチが脇にすわるセイベイを盗み見たとき、うう、と苦し気な声をあげ、タイゾウが突っ伏した。
「 お おねがい いたします、 む、すこがっ、ヘイジが、 なにしても、目をさまさねえんです。 ・・・おれが、 おれが、あいつに つよくあたりすぎたんだ・・・・立派な職人に なってほしくって ずっと 家でも 親父ってよぶんじゃねえって・・・」
背をふるわせて畳をかく男の背を、たちあがったセイベイがそっとたたく。
「タイゾウさん、あたしもね、息子とうまくいかなくって、いろいろおかしなことがたまっていって、あやうく大事なもんをなくすところだったんですよ。ですがね、―― 」そこでヒコイチをみてから、ダイキチを手でしめした。
「こちらのお坊様のおかげで、それがきっちり片付いて、いまじゃ息子がしっかり店を継いでおります。 サネからはなしをきいて、こちらも恥をさらすようですが、黙ってはおれませんで・・・どうか、こちらのお坊様をたよって、すべておまかせください」
「ああ、 ありがとうございます。姉さんにまでこんな、迷惑かけちまって、お店の旦那さんにまできてもらって、ほんとすまねえ」
サネはサダの横で泣きながら首をふっていた。
めもとをおさえたサダは立ち上がってタイゾウの横に膝をつくいてならぶと、セイベイとダイキチに頭をさげつづけた。
ヒコイチの後ろで、尼さんのような恰好をした『先生』がヒコイチのみみもとでささいた。
「文句はあとでききますから。この《場面》は、みんな泣くところですよ」
先生までろくでもねえという言葉をのみこみ、めをつぶることにした。