病をはらう坊主
五、
むかいあったタイゾウは、ヒコイチがおもっていたよりもずっとやつれて疲れていた。
それにくらべ、サネの妹のサダは、顔色はわるいが、しっかりと気を張っていた。
「ほら、おまえさん、こちらが姉さんのお店の大旦那さまで、はなしをきいて、悪い病をはらってくれるっていう《お坊さま》をみつけてくださったんですよ」
四十路まえだというサダは、たしかにサネに似ていた。はっきりしたしゃべりかただが、声はやわらかく、初めてあったヒコイチたちに頭をさげ、よろしくおねがいもうしあげます、とすがるように頭をさげると、姉の手をとり、しっかりとうなずいていた。
「坊さまなあ・・・どこの宗派だい?」
タイゾウは疲れ果てた声できく。
があっはっはっはっは
いきなりの大きなダイキチの笑い声に、ヒコイチもおどろいた。
「『宗派』だと?このわしに『宗派』があるとでも?そんなもんにとらわれておる坊主に『病』をはらえるとでもおもうか? いいか、おまえさんの息子についとるのは、医者には治せん悪い病だ。そういう悪い病のもとは、たいがいが悪い《念》でできておる。 死んだ者が残したものか生きておるものがつくったか、そオいう悪い《念》を、ひろってしまう者がいて、その者はあるときからいきなりおかしなことになる。 家人も手をつけられぬようなことになり、医者になど治せんどころか、みたこともなくわからぬようなものばかりだ。だがな、 ―― ここで見捨てたり、あきらめたならば、その者は戻ってはこられぬ。 よいか、親御殿。息子をたすけたくば、この坊主を信じて会わせろ。いままでもわしを信じられぬ家人に軒先で追い払われ、たすけられぬ者が多くいた。 だが、信じろ。わしは、あんたの息子をたすけたい」
いいきったダイキチは両膝にこぶしをおき、ぐうっと身をのりだした。
むかいあったタイゾウの顔は赤くこわばり、みひらいた目はうるみ、ダイキチをにらみかえすようだった。