38/71
見えてるもの
「それなら、そんときに枕を変えりゃよかったろ」
「変えたんだよ」
いくらか怒ったようにヒコイチへかえす。
「お医者さまが頭を浮かせたから、そこで変えておいたのに、また、元の枕になってたっていうんだよ。 でも、みてたはずのお医者もタイゾウさんも、枕は変えてないって・・・。疲れているんだって言われたって・・・」
しょんぼりと両手をひざにおとした。
「サダさんとタイゾウさんで、見えてるものがちがうのかもしれないねえ。 そうだろう?ヒコ」
隠居のことばにうなずくと、サネは口をはんびらきにして泣きそうな顔で二人を見比べた。
「サダは、嘘つくような子じゃないんです。どうか、どうか」
セイベイにならともかく、ヒコイチまでに手をついて頭をさげるのを、やめてくれ、といって顔をあげさせ、はやくサダさんにいくことを知らせてやんな、と背をたたくと、ようやくいつもの顔になり、セイベイに頭をさげて立ち上がった。