奇病
四、
サネのはなしをきいた日に、セイベイはすぐヒコイチといっしょにその枕をみにゆくのを約束した。
サネは隠居じきじきにいくと言い出したのに困ったような顔をして、ヒコイチをみながら言いにくそうに口にした。
「旦那さま、 あの、じつは、・・・枕のせいだと思っているのは妹だけで、タイゾウさんのほうは、奇病だと思っておりまして・・・」
「人にみせたくねえってことか?」
ヒコイチがきくと、口をひきむすんでうなずく。
その、とあわせた指をもじもじさせたサネが眉をさげる。
「枕から頭がはなれないのも、 ・・・みたのは、サダだけなんですよ」
「『離れない』っていうのは、どういうことでそう思ったんだい?」
セイベイがきくと、さらにいいにくそうに指をうごかした。
「頭から、枕をぬこうとしたんです。 サダははじめから、その枕が気にいらなくて、ヘイジがねぼけた顔で《天女の衣》でできてるなんていうんで、川に捨てたぐらいなんですから」
ところが枕はもどってきて、こんどこそ燃やして捨てようと思いながら、息子の頭を支えて浮かしたら、 ―― 枕までがいっしょに浮いた。
そんなわけ、とおもいながら枕の木の台をつかんでひけば、息子の頭もついてくる。
「 ・・・こわくなって、もどしたと手紙に書いてありました。 なにかの間違いかと何度かためして、やはり、離れないと・・・。 でも、タイゾウさんがようやく医者を呼ぶ気になって、みてもらったときには、離れたっていうんです」
へ?とおもわずヒコイチは声をだした。