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夢ではない
また大声でかえそうとしたタイゾウの袖をひいたサダが首をふり、声をのみこんだ父親は、もうきょうは工房にいかなくていい、と命じた。
ひきあげるヘイジの背に、「あのこだって、ここまでずっと気をぬかずにきたんですよ」とかばいだてする母親の声がとどき、情けないような腹がたつような気持ちで部屋の障子をあけたとき、 ―― そこに、あの枕があった。
畳の上に無造作におかれたそれにそっと手をのばす。
やはり、夢ではない。
それをもって、親父のところへもどろうと考え、いや、先に、やはりよく見ておこうと、両手でつかんでじっくりながめた。