33/71
どこに
「・・・そんな・・・それじゃあ、あの枕は・・・」
「いいかヘイジ、棟梁のところですこしは職人らしくもなったかとおもってたが、朝寝ぼけてるまま、仕事場で夢なんざみて、おまけにそれが《枕》だなんて、なさけねえにもほどがある」
「いえ、たしかに、枕がはいっていました」
正面をみて言い返す息子は真顔だった。
たしかに、子どもの頃のぼうっとしたようすは影をひそめた。預けた棟梁からも、このままおれの弟子にしもいい、と戻すのを惜しむようなこともいわれた。つくった櫃をみせてもらったが、たしかにたいした出来だった。
それなのに
「どこに枕がはいってるってんだ?」
「それは・・・」
扉がひらいたその中をもういちどのぞいたヘイジは、痛いのをこらえるような顔で、見間違えたようです、と下をむいた。