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そんなわけ
「 ・・・ここに ・・・枕がはいっていたでしょう?」
「 ―― なに?なにが入ってたって?」
ヘイジは白くなった顔を親方へむけた。
「ま、枕ですよ。古くてみたことのないかたちで。 おれがこれをすぐにあけなかったのは、中になにか入っていたからです。動かすと、中で音がしてそれが知れたんです。だからあけずにおいて、それで、ゆうべ運んだ時にも音がして、この扉をひらいてみたら中に古い枕があったのです。 てっきり、ここがそのぶん仕切られていて、外からみたより中はすっと狭いのかと」
よりにもよって、《枕》などとぬかした息子に腹が立つ。
そんなわけあるか!!とどなった声におどろき母親のサダもきて、箪笥をもういちどそこであらためた。
かたむけても音はせず、仕切りなどもどこにもない。