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持って帰る
そうか、とうなずくようにうなだれた親方は、しばしうなったあとにたちあがり、持って帰るぞ、とふりかえった。
「 どういうことでうちの工房の前に置いたのかはわからねえが、雨の中に置き去りっていうんじゃ、それほど大事にされてねえんだろ。 だからといってここに置いたままじゃ、おれがなおす気でいるみてえにおもわれるしなあ」
螺鈿細工の職人は知っているが、そいつにみせるのもどうか、などと、もごもごいいわけめいたことをいうと、この箪笥のことはしばらく誰にもいうな、といいつけた。
「 ―― 火事場から盗まれたものだと、困るしな。これだけのものがなくなったなら、すぐにわかる」
すこしまわりにきいてみようといいながら、ヘイジに風呂敷を用意させるタイゾウはどこか楽しそうだった。
「 親方、ほんとうに家にもってかえるんですか?」
「たいして重くもねえだろう」
「いや、重くはないですが・・・」
風呂敷に包んだ箪笥をヘイジが背負ったとき、ごとり、と中にあるものが動いた音がした。