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たずねてきた者は無し
「うーん、こういうのは中に仕掛けがあるもんだが、よけいな穴やなんかもねえなあ、きれいなもんだ」
中をなでようとして、煤でよごれちまう、と気づいて手を引いた。
左側にあるひきだしもそれぞれ出してみたが、奥には何もなかった。
あぐらをかいて座り込み、腕をくんで箪笥をにらんだタイゾウが、この箪笥のことで誰か訪ねてきたか、ときく。
「いいえ、だれも」
そうきかれれば、持ち主とおもえる者はこなかった。
「 こんな立派なものを持ってるなんて、いまどきなりあがった商売人だとかじゃねえなあ。だけど、唐渡のこんなもん持ってるなんざア、・・・このあたりにはそういう寺だとか、殿様のはなしは聞いたことねえしなあ」
困ったように首をかたむける親方は、ゆっくりとヘイジをみあげた。
「 ―― この箪笥のことは、あと誰が知ってる」
「どうかなあ・・・。 おれが朝しまったあと、親方に言われるまで、誰にも聞かれはしませんでしたが・・・」