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ひらいた
ヘイジは腰にさげた手ぬぐいをみて、両手をひらいてみたが、煤の黒いよごれなどついていない。
「いや、親方、煤なんて、」
「あけるぞ」
ヘイジの声など聞こえないように、親方は箪笥をそっと下におき、ホウオウの金具のでっぱりをつまんだ。
きい、とかすかな音をたてて扉がひらき、中のひきだしがみえた。
こういうカタチか、と親方がよろこぶような声をあげ、ヘイジも目をこらした。
左側に縦にふたつ、横にふたつの四角いひきだしが四つ。右側には片開きの戸があり、左方に鍵穴がある。ためしにそのまま開こうとしたがひらかない。
「鍵がねえとだめか」
親方が扉をこつこつとたたいたとき、かつん、となにか音がして、それがひらいた。
「ほんとかよ。 ―― こりゃ、細工物か?」
親方はひらいた扉をうごかして細工をあらためようとなんども開け閉めしたが、なにもみつけられず、首をかしげながら箪笥を横にした。
やっぱりなにも音はしなかった。