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逸品
「おまえが持ってきたのか?」
「とんでもないです。 けさ、軒先に置かれてあったもので、きっとどこかの者が、壊れたのをなおしてほしいと置いていったのでしょう」
「壊れていたか?」
「ああ、そうだ。それをみようとしましたら、中になにかはいっているようで・・・」そこであとにしようと、置いたままになりました、とヘイジは親方の顔をうかがった。
親方は、まるでその箪笥がこれから動くのをおさえこむとでもいうように、目をみひらき、眉間に力をためて、睨んでいた。
「お・・・やかた?」
「逸品だ。 ―― しかも、ふるくって、唐あたりからわたってきたんだろ。 みろ。この金具の細工を。こりゃあむこうの《ホウオウ》だ。紫檀ってやつじゃなさそうだな・・・漆がぬってあるわけでもねえし、むこうはこっちと違うケヤキがあるっていうが、まあ、硬そうではあるな」
拳でかるく、こんこんとたたいて耳をつける。