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なにかが入って
なにかが、はいっている。
こういうときに中をあらためるには、誰かもう一人いてもらわないとこまる。
箪笥の中にはふつう、大事なものしか入っていない。
なおすのに箪笥を預かるときは、運び出す前にもういちど確かめ、そこに持ち主も立ち会ってもらう決まりになっている。
中に大事なものがまだはいっていて、あとになってそれがなくなったなどと騒ぎになるのをふせぐためだ。
なので、ヘイジはそれをあけずに、雨にぬれたのをふいただけで、工房のすみへとおいたままにした。
そのあと、なぜかその箪笥のことはすっかり抜け落ちてしまい、いつものように見習いとして忙しく働く間にも、他の誰も箪笥にふれることはなかった。