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大工だから
ひどく雨が降り、寒さがもどったような天気が続いたとき、朝一番に工房をあけて掃除をするヘイジは、雨水のはねかえる軒先におかれた、その小さな箪笥に顔をしかめた。
ときおり、じぶんの家の壊れた箪笥をなおしてほしいと勝手に持ち込む客がいるのだが、タイゾウはそういうものを受けてはいない。
なおすのは、この工房でつくられた箪笥だけで、箪笥にはこの工房の《親方》の銘が、奥の見えないところにいれてある。
それは、指物師としてやってきた親父の矜持であり、ヘイジはいいと思うのだが、じぶんは大工としての矜持がある。
壊れたものはやはり、なおしてやりたい。
ほかの者がこないうちになおしてやればよかろうと、箪笥を中にひきいれた。