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頭から はなれない
「 ―― 枕が、・・・頭から離れない、って・・・」
「は・・・」はなれない?
おこったように眉をよせたサネがうなずくと、セイベイがたちあがった。
「 お茶を入れかえようかね。なんだか冷えてきたようだ」
サネはそこに座っていなさいと、隠居は母屋へ続く廊下へでていった。
ヒコイチは、曇りだした空をみながら障子に手をかける。
みゃあ、と声がして、縁側に黒猫がとびのってくると、まっすぐにサネをめざして障子のすきまをすりぬけた。
どうやらカンジュウロウが『入って』いるほうではない、カンジュウロウがくわえてひろってきた子猫のほうらしく、ヒコイチのこともみない。
よってきた猫を、両手でむかえ膝にのせたサネは、みあげる猫に涙をおとしはじめた。