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ガランにて ~ルカ・アーハートの発現~

 広場の上空に、突然3体の魔物が現れた。

 惡魔が羽を生やしたような姿で、角を生やし、手足の爪は鋭く不気味な顔をしている。

 

 魔物たちは広場の周辺を点検するように飛び回った。

 非常アラームは鳴っていない。


 こんな所に魔物が!

 俺は焦った。

 プレ討伐隊発足から数カ月、今日はプレ討伐隊同士が練習試合を行う予定で、広場には4パーティ30人近くの子供たちが集まっているのだ。俺とモンド以外の兄貴分・姉貴分はまだ学び舎にいる時間だ。

 

 シールドが破られたのだろうか。

 それにしても突然だ。何かおかしい。


「ガーゴイルだ!」と魔物の名前を叫んだのはルカだった。


 ガーゴイルか……動きが素早く、一撃の攻撃力が高い。エネルギー値も高めだ。しかも炎を吐く。3体とはいえ子供たちが攻撃されたら危ない。育成所まで走らせるべきか──


 考えていると、ルカが「戦えるよ!」と言った。

「僕たちだって戦える! 僕にはわかる。ガーゴイル3体よりも僕らの方がはるかに強いって」


 子供たちを育成所まで走らせたとして、追いつかれて襲われる。

 それなら戦う方がマシかもしれない。模造剣でもダメージは与えられるだろう。

 もちろん俺たち兄貴分が力の限り皆を守る。


「わかった、そうしよう! 魔物が襲ってくる前に隊列をつくろう」


 俺とモンドは剣を取り前列に立って、子供たちをその後ろに並ばせた。

 魔法を使える子もいるが、急場で力を発揮できるほど練習はしていない。無理に戦わせず防御の姿勢を取らせようと思った。


 後ろでルカが「イースは前衛」と声を上げた。

 大きな体でとまどうイースを見上げて「君は戦士でしょ? この中で一番強いから」と言う。


「次がマリオ。イースの隣にいると今より力がアップするよ」


「ええ? ルカはそんなことがわかるのか」

 そう聞くと、ルカは真剣な表情で「わかるよ」と言った。

 魔物図鑑を読み込んで得た知識か……いや、違う。これは──

 

 俺とモンドは目を見合わせて頷き合った。

「みんな、ルカの言う通りにしてみよう!」

 

 11歳のイースと10歳のマリオが、俺とモンドの横に並んだ。


「ミュナは水魔法が使えるでしょう?」ルカが聞くと

「……使えるけど。誰にも言ってないのに」と、12歳のミュナは不思議そうな顔をした。

 

「どうして秘密にするの? ミュナはすごく強い魔法使いなのに」

 ルカに言われまんざらでもない表情のミュナ。

「火や氷じゃなく水だから、大したことないって思ってた」

 笑いながら小さく首を振る。

 

「ミュナの魔力が一番強いよ。それに水魔法がガーゴイルには効果的なんだ」

「わかった、あいつらに水魔法をかければいいのね」

 ミュナの顔が自信に溢れてきた。


「あのね、ミュナ。ガーゴイルは火を吹く時、防御力が半分になるんだ。火を吹く前に一瞬頭を後ろに動かすから、そのタイミングで水魔法を出して」

「頭を後ろに……わかった」


「ネオとリオはミュナの隣に立って。そうするとミュナの水魔法がもっと強力になる」

「こうだね、ルカ」

 双子の魔法使いがミュナを挟んで立った。

 

「ユードとシンは前列から順に防御魔法をかけて」

「やったことないよ」とユード。

「できるよ! 君は防御魔法が得意なはずだ」

「本当に? やってみる。けど、なんて言えばいいの?」


「ユード、こんなのはどう? イースに護りを!」

 困っているユードにリィサが提案した。


「いいね、リィサ。……イースに護りを!」

 

 ユードがイースに向かって手を差し出すと、イースが薄い光に包まれた。

「できた」と自分の手を見つめるユード。

「僕もできるかな」と、シンも真似してマリオに防御魔法をかける。

 上手く行った。


 イースが口笛を吹くと、しばらく空を旋回していたガーゴイルたちが近くに飛んできて威嚇し始めた。


 俺はガーゴイルたちの前に出ると、一番手前のガーゴイルを模造剣で攻撃した。すかさずモンドが同じガーゴイルを攻撃。

 イースとマリオは別のガーゴイルをそれぞれ一体ずつ叩いた。

 リボン(年少組)でもさすが戦士の卵だ。俺達の一撃とはまったく違う。

 2体は弾かれたように仰け反った。

 

 ガーゴイルたちはよろめきながら体勢を立て直し、一体が火を吐く前に頭を動かした。

「来る!」

 邪悪な口元から火が出てきたかと思うと、こちらに届く前に水の塊とぶつかった。ミュナの水魔法だ。

 水の塊はガーゴイルの顔面をえぐるように当たり、一体のガーゴイルを消滅させた。

 

 別のガーゴイルが火を吹いたが、マリオの盾で炎を防ぐことができた。

 エアカッターが飛んで残ったガーゴイルを一度に斬る。続けてファイアーボールがガーゴイル目掛けて飛び2体を燃やし消滅させた。

 

「やった!」と、ネオとリオが手を上げて叫んだ。

 イース、マリオ、ミュナたちがネオとリオに駆け寄り、手を取り合うと「倒した!」「やっつけた!」と喜び合った。続けて大勢の子供たちも寄って来て「やった!」とはしゃぎ回っている。


「ルカのあの魔法……初めて見たよ。なんて言ったっけ」

 モンドは眼鏡を掛け直した。


「ああ、鑑定魔法」

「そうだった、まさか本当にあるとは。内容はうろ覚えだけどね」

 

 俺は魔法大全に書いてあった鑑定魔法について思い出しながら言った。

「鑑定魔法は、個体の持っている能力がわかる魔法だ。魔物でも人でも。属性、レベル、魔法やスキルの内容、何に強くて何に弱いかもわかる。必要な時に自然発動する。

 魔法大全では、この世にあるかもしれないし、ないかもしれない魔法……という書き方だった」


「はっきり言ってヤバいんじゃないか?」

 

「……ヤバいな。討伐隊と魔物の能力がわかるから、何ターンで倒せるか計算できる。こちらに有利な効率の良い戦い方が可能になり、リスクは最小限に抑えられるだろう。もちろん、特殊攻撃や道具もあるし計算通りには行かないだろうけど」


「立ち位置で能力がアップする事を初めて知ったよ。それが分かるというのも驚きだ。大袈裟ではなく、ルカはガランを救うかもしれないな」

 モンドがそう言うと、俺は誇らしいような淋しいような気持ちになった。


 ルカの周りで子供たちが隊列をつくって遊んでいる。どう並ぶのが一番効果的か、ルカに聞いているんだろう。無邪気な笑い声。

 力を合わせて初めて魔物を倒した今日のことを皆、忘れないだろう。



 プレ討伐隊がガーゴイル3体を倒したという知らせは、翌日には学び舎、育成所、管理棟の役人にまで届いた。

 プレ討伐隊の活躍は称えられ、ルカの不思議な力は見ていた子供たちの間でしばし話題になった。


 しかし──ルカの鑑定魔法はその時限りとなってしまった。


「どうしたんだ? ()()ルカ」

 プレ討伐隊の指導が終わった後、広場の長椅子に腰掛けてルカとしばらく話した。

 

「あの時は、皆の能力が自然に分かったんだ。でも今は分からない。見えないんだ」

 小さな声で困ったようにルカが言った。

「よくあることだ。能力発現しても発動するまで時間がかかったり、ずっと発動しない事もあるみたいだし」

 俺は努めて何でもないように答えた。実際そうだし。

 

「せっかくみんなが期待してくれたのに……」

 残念そうに言うルカに、テキパキと指示を出して皆をやる気にさせたあの日の元気はない。

 

「気にしなくていいよ。俺たちはガーゴイルに襲われて散々な目に遭っていたかもしれないんだ。助かっただけでも凄いことなんだから。でも、ルカが発動したいと思っているならそう願うよ」


 しばらくルカは考えていた。ブラブラと動き始めた足が年相応の少年の仕草らしかった。

「……本当は僕、そんな能力が欲しいのか分からないんだ。喜んでもらえるのは嬉しいと思うけど」

 素直な言い分に思わず微笑む。

 

「自分では決められない事だから自然に任せよう。困ったらいつでも相談して」

「ありがとう、ゼクス兄さん」

 ルカの声に元気が戻ったようでほっとした。



「ここに居たのか」とモンド。

 育成所近くの談話室で、ひとり本を読んでいた俺の向かいに座った。


「うん、何?」

「この間のガーゴイルの件、調べたんだけどシールドが破れていたという話はなかったんだ」

 

「気づかれなかっただけじゃないかな? それとも誰かが隠しているとか」

「そういう事も十分あり得るけど……」

 モンドは何か言いたくてそわそわしているなと思った。


「君はどう思うんだ? モンド」

「魔物の能力がアップしてきている。我々の予想を越えるほどに。この間僕たちがルカの能力を見て驚いただろ? 同じように、すごい能力を持った魔物が現れてもおかしくない」


「たとえば?」

「転移魔法だ」

 

 ガーゴイルたちを見た時の事を思い出した。確かに突然現れたというのがぴったりだ。何かおかしいと感じた事は、転移魔法だったというなら納得できる。

 

「魔物の領域から人間の領域へ転移できるとしたら……じゃあ、シールドをどれだけ厚くしようが無駄だと言うことか」

「そうだ」


 俺は、恐ろしい未来が近づいてきているのを感じた。


*鑑定スキル→鑑定魔法 と修正しました

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