ガランにて ~入隊式〜
学び舎を卒業する時が近づいてきた。
俺とモンド、どちらも能力発現しなかった。
モンドは自己紹介の時に言っていたように、鉱物と魔法の研究者を目指すために研究棟で働く事を志願したという。18歳までは村の仕事と兼任するから、プレ討伐隊での指導も続けていける。
俺はしばらくプレ討伐隊関係に専念するつもりだ。
テーブルには海鮮のスープと2種類のパン、骨付き肉、酢漬けの野菜と豆、甘い蒸し饅頭とゼリーが並んでいた。桜桃の入ったシトロンサイダーもある。
「ご馳走だね」
「15歳おめでとう、ゼクス」
「ありがとう、ばっちゃ」
「最近の活動はどうだい?」
「レティアが発現したよ」
「赤毛の子だね。どんな魔法を?」
「回復魔法だ。怪我をした子の手当をしている時に回復が使えるようになった」
ばっちゃは近辺の子供たちの顔を大体知っている。出生や成長の節目に、親は子供をエルダー・リリーの元に連れてくるからだ。加護を授け、必要があれば母子の回復や魔除けを祈るのもばっちゃの仕事だ。
「それは頼もしいな。回復系はパーティに1人は欲しいところだ。だけど、回復魔法を子供にかける時は全回復しないように。免疫が育たないからね」
ばっちゃは具のないスープを飲みながら言った。
「うん、わかった」
俺の頭はプレ討伐隊のことで一杯だった。少し前まで15歳になっても能力発現しなかったらどうしようと悩んでいたのに、誕生日が来たことすら忘れていた。もちろん、がっかりすることもなかった。
むしろ討伐隊に入らないことでプレ討伐隊の活動がしやすくなっているのは、都合良かった。
「前に危機的状況下で能力発現しやすくなると言ったけど、メンバー同士が刺激し合うことでも同じような効果が出ている気がするんだ。レティアは特に影響を受けやすいタイプみたい。双子はお互いに刺激し合っていると思うし」
「それは興味深いな。良い刺激がきっかけになって子供たちの能力が目覚め育つとしたら喜ばしいことだ。双子の魔法も成長したのかい?」
「ネオは偶然だけどエアカッターができた。どうやら風の魔法いのようなんだ。リオの方はファイアーシールドがあと一歩って所」
「それは凄い。ゼクスのパーティは優秀だな」
ばっちゃは掌からマーヤを出すと何か言付けて飛ばした。
「モンドが今データを集計しているところだけど、プレ討伐隊結成後の発現は5人に1人以上の割合になっていると思う。発現率だけじゃなく、その後の発動についてもそのうち分かってくるよ」
静かに微笑みながらばっちゃは言った。
「お前はとても良くやっている。プレ討伐隊はとても将来が楽しみだ。でも、結果にばかり気を取られてはいけないよ。プレ討伐隊の一番良い所は、家族のような存在があると感じられることなんだ。子供は皆、家族が必要なんだ」
「……そうだね。ばっちゃの言う通りだ」
マーヤが戻ってきた。続いて世話係が入ってきて、骨付き肉を俺の皿に乗せた。
「育ち盛りだからたくさん食べな」
「うん」
骨付き肉は口の中でほろほろと身を崩した。
パンを齧りシトロンサイダーを一気に飲むと、グラスの底にあった桜桃が口の中に入ってきた。
カラフルな魔法玉が空に向かって投げられた。玉は空中ではじけ、花や鳥の絵が空を飛び(ガラン 入隊式 神殿にて)の文字が浮かび上がった。
祝砲が打ち上げられファンファーレが鳴り響く中、神殿で入隊式が始まった。
入隊式の後はお祭りと物産展が開かれることもあり、大勢の観客が集まってきている。皆、年に一度のこの行事を楽しみにしているのだ。祭り用の旗、花や香草が通りを飾って気分を盛り上げていた。
プレ討伐隊も何隊か来ているようだ。モンドやリィサたちの顔もあった。
俺はばっちゃの手伝いで神殿内にいる。神殿用の赤と白の服を着て、ばっちゃの横に腰掛けた。
少年少女たちが瞳を輝かせ、四方から神殿に集まってきた。1人で来る者、親兄弟に付き添ってもらう者、あちこち見渡して落ち着かない者や気楽そうな者。背の高さ、顔立ちも様々な15歳の能力者たち。
毎年、数百人が新しくガラン討伐隊に入隊する。戦士、ヒーラー、魔法使いがほとんどだが、今年はアーチャーと踊り子もいるらしい。ヒーラーの中に、姉貴分としてプレ討伐隊に協力してくれていたメルもいた。
「ヒーラー代表で出るから見ていてね」と言っていたっけ。
入隊者たちは神殿の外側に控え、うち数人が代表で神殿に上がった。
俺は代表者を神殿内の用意された椅子に案内した。この後ばっちゃが1人ずつ順に呼び出し、洗礼の儀と加護の授けを行う手筈だ。
ばっちゃが水晶の横に移動すると、話し声が消えた。
「アレクサンドラ・デュカス」
「はい!」
体の大きな金髪の少女が立ち上がって神殿中央に進み出ると、水晶の真横で足を止めた。目を閉じ、胸の前で手を合わせる。
簡素なワンピースに皮の靴。大人の男よりも背が高いが顔はあどけない。
ばっちゃが彼女の前に立ち、持っていた経典の一部を読むと、神殿内の巨大水晶が輝き始めた。
「そなたが力ある者ならば、水晶を通して神より祝福が与えられるだろう。水晶に手を」
アレクサンドラが水晶に片手をかざすと、手の先がうっすらオレンジ色の光を帯びた。光は手から腕、胴、頭、足にまで広がっていく。
そして少女の姿に変化が起こった。
全身の筋肉が整えられ、しなやかな力強さが増していく。その肉体に金属の鎧が体のカーブに沿って現れ、元のワンピースは鎧に合わせて変化した。金色の髪は赤みを帯びて艷やかになびき、瞳はさらに赤く輝いている。腿の上部まであるロングブーツと籠手が手足を包み、勇ましくも美しい女戦士の姿になった。
変化した姿は能力を最大限発揮できる『モードS』だ。
モードSというのは、戦闘を続けて気力が上がった状態を言う。全てのステータスが通常モードの数倍に跳ね上がり、通常では使えない魔法や特殊能力が使用できるようになる。
これが神からの祝福だ。
「おめでとう!」という声と共に拍手が起こった。口笛も聞こえる。
「アレクサンドラ! ガランの戦士」
少女は変化した自分の姿に感激した様子だ。体を包む鎧や籠手を撫でて確かめると「やった!」と声を上げ、顔を覆って泣いていた。
「アレクサンドラに相応しい武器を与えよ」
ばっちゃが言うと少女は水晶に深く手を入れ、刃に赤い宝石が並んだロングソードを引き出した。
「わあ!」と、驚きの声が上がる。力強さと美しさを兼ね備えた、少女にぴったりの剣だ。
アレクサンドラはロングソードを天に掲げ、ゆっくり下ろすと剣を消した。
武器や防具、身に付けている鎧などは収納魔法がかけられているから、いつでも出し入れできる。モードS状態はそれらの収納と共に解かれ、通常武装に戻る。
戦士たちの儀式と授けが終了し、ヒーラーの番になった。
「メル・バーレイ」と、メルの名前が呼ばれた。
メルは儀式により、薄茶の髪と瞳が鮮やかな緑に変化した。
ヒーラーの装備は丈の長い白い治癒服を基本に、各々の個性に合わせてアレンジされる。メルには丈が短く装飾ヒダの多いヒーラー服が与えられた。同時に丸いシルエットの白い帽子とショートブーツが現れた。どれもメルによく似合う。
武器はロッドで緑の宝石と羽飾りがついている。
神殿内で声を上げるわけにはいかないため、嬉しそうなメルに心の中で「おめでとう」を言った。
一番劇的な変化は魔法使い。ローブは黒や紫が多く、表面にはマジックジュエルの粒が散りばめられている。髪飾り、耳飾り、サークレットや腕輪といったマジックアクセサリーも多い。魔法の数だけジュエルの種類も増えるようだ。肌に光るタトゥーが浮き出る者もあり、神秘的な美しさに息を呑んだ。
俺はしばし、手伝いということを忘れて見入ってしまった。
代表者たち全員の儀式が終わった。次は神殿の外で控えている入隊者たちの番だ。
ばっちゃに頼まれていた通り、彼らを数人ずつのグループに分けて神殿内に案内した。順次、水晶の周りに並んでもらい、一度に儀式が受けられるように手助けした。
観客たちは最後まで入隊者たちの変化を見守り、祝福した。
すべての入隊者が洗礼の儀を受け、加護の授けにより自分だけの装備と武器を手にすると、入隊式は終了した。
「これで私の大役が終わったよ」
ばっちゃは晴れ晴れとした顔で言った。
皆がすれ違いざまに「お疲れ様」と言う。
「今年も無事この日を迎えられて良かったよ」と言う老人や「来年は私の番」「戦士の子がカッコ良かった」などとお喋りをする子供たちもいた。
人が途切れ、ばっちゃが俺を呼んだ。
「手伝い助かったよ。これは今日のお礼だ」
赤い宝石の指輪をくれた。濃い赤色なのに様々な色を含んでいる。不思議な輝きに一目で虜になった。
「高価なものじゃないの?」
「人による。ゼクスが大事に持っていてくれるなら安いものさ」
「ありがとう。大切にする……なんていう石?」
「マジック・ファイヤーオパールさ。しまい込むんじゃないよ。常に身に着けるんだ」
「身に着けていると、どんな効果があるの?」
「護ってくれる。そして思う未来にゼクスを導いてくれる」
思う未来に……。
俺は指輪を中指にはめた。
さっき見た魔法使いの胸元や剣に飾られたどの宝石よりも綺麗で価値があるものだと感じた。
「ぴったりじゃないか。お前が魔法を使えるようになったら、きっと瞳が赤く輝くだろうよ」




