ガランにて ~プレ討伐隊計画~
委員長のモンドが教師に掛け合ってくれたことで、プレ討伐隊の話は一気に進んだ。
「モンド、まだ大人とは言えない俺たちと子供たちの関係はどう呼んだらいいと思う?」
「そうだな……義兄弟とでも。ちょっと堅苦しいかな」
俺とモンドは、プレ討伐隊に必要なルールや注意事項など細かいことを考え決めていった。
それを後で教師がチェックする。
「兄、姉、弟、妹……だと、本当の兄弟と間違えそうで混乱するかな」
「兄貴分、弟分、みたいに呼ぶのは?」
「それにしよう!」
俺はモンドの提案を書き留めた。
タイプの違う俺とモンドの考えはあまり重ならず、幅広い意見が出し合えた。互いに尊重し、面白がり、ダメ出しもしながら詳細を決めていった。
「能力発現が6歳ぐらいから始まるから最小年齢は5歳ぐらいに設定しないか? 7歳になれば兄貴分になれるというのは」
俺が7歳の時にオーリが生まれて「兄さんになった」と言われ、どれほど嬉しかったか。
モンドは賛成し、2人で話し合ったことをまとめて教師に提出した。
教師から管理棟へ、エルダー・リリーの元へも連絡が行った。
地区の育成所に話が行くと、ぜひという返事で協力を得られることになった。
大人たちは俺たち学生の思いつきを「ものは試し」と、「取り敢えず」「おおらかに考え」やってみることを賛成し、一部の地区でテストを兼ねプレ討伐隊は始まった。
管理棟の役人が数名と教師陣が数名、そしてプレ討伐隊に参加してくれる多くの学生が放課後、育成所の隣にある広場に集まった。近隣の人たちの姿も見える。
育成所の中から、子供たちが世話係に誘導されてぞろぞろと出てきた。
俺は拡声器を持ち、舞台に上がると気を引き締めて言葉を放った。
「今日からプレ討伐隊を始める! プレ討伐隊というのは、討伐隊に入る前の、君たち子供の養成所みたいなものだ。
君たちはいずれガランを守る大人になる。討伐隊に入って魔物と闘うかもしれないし、別の仕事をするかもしれない。どちらにしても、君たちは強くならなければいけない。
マーケットの魔王軍襲撃で、家族を失った子は多いだろう。俺もそのひとりだ。父と母と弟を亡くした。
魔物の数が増えている。魔物が強くなっている。大人たちが少なくなっている今、子供でも戦えるように準備しておくんだ」
思ったより皆、静かに聞いている。世話係が小さい子供を膝に抱いたり背負ったりして、話の邪魔をしないように気を遣ってくれている。
「5歳以上の子供は全員、15歳になるまではプレ討伐隊に入隊するんだ。指導するのは当面、俺たち上級の兄貴分と姉貴分だ。
君たちのことは弟分と妹分と呼ぶ。本当の兄弟みたいに頼っていいし、分からないことは何でも聞いてほしい。だけど、決まりがあるから皆ちゃんと守るんだ。
最初は体力づくりと基礎練習、それから武器の扱いや防御の仕方を学ぶ。慣れてきたらパーティ同士で戦ったり、年長の兄貴分たちと手合わせをしたりする。
君たちが色々覚えて強くなれたら、今度は君たちが兄貴分、姉貴分になって年少の子たちに教える側になるんだ。それは名誉なことで、君たちができる最高のことだと思う」
歳の大きい子供たちの瞳が輝き始めた。小さい子たちはわけがわからないだろうが、それなりに興味を示してくれているようだ。
「いいか、君たちは俺たちと一緒に、生まれ育ったこの『オリジン』という星の、ガランという国を守るんだ。
能力発現してもしなくてもいい。皆、頑張って鍛えて行こう!」
話し終えて拡声器を持った手を下げると、周囲の大人から拍手が沸き起こった。それを真似て子供たちも拍手している。
興奮した数人の子供たちが駆け寄って抱きついてきた。俺はその子たちを抱き上げたり撫でたりして、早くも兄貴分の気分になった。
「みんなこっちに集まって並んで!」
育成所の世話係が子供たちをまとめるのに奔走している。
その後、同郷や親族、友人などの繋がりで一緒のパーティになりたいという子供たちの意見を優先して、1パーティ5人から8人のプレ討伐隊が30隊ほど結成された。
兄貴分と姉貴分が子供たち一人ひとりに、パーティを色分けしたプレ討伐隊の記章をつけてやっている。
防具の盾も配られた。鎧や武器はもう少し後の予定だ。
年齢や体格に合せて用意する専用の武器と防具は、これまでゴムの玩具しか持たなかった子供たちに現実の感触を教えるものになるだろう。
「ゼクス! リィサとルカが、あなたが兄貴分じゃないと嫌だって」
同年で姉貴分のメルが困った顔で走ってきた。
「構わないよ」
しばらく後、メルに連れられて子供たちがやって来た。今朝の顔ぶれだ。
リィサは相変わらずルカの手を引いている。レティア、双子のネオとリオもいて、皆にこにこと笑って俺を見上げた。
「全員?」
「うん。みんな一緒がいいって」
「いいよ!」
初めに会った5人がそのまま俺とモンドの兄弟分パーティになった。
無事、プレ討伐隊を実現させることができたが、考えることは山ほどある。
子供たちに何をどう教えるのが最善か。
子供たちと兄貴・姉貴分たちの比率はどのぐらいが良いか。
鍛錬の時間はどのぐらいが適正か。
子供の個性ややる気、向き不向きなどの問題も出てくるだろう。
少しずつ対応していく他ない。
俺はリィサとレティアに、姉貴分になってほしいと頼んだ。
2人は快く了承してくれた。
「特別なことをするわけじゃないんだ。自分の本当の兄弟みたいに思って気にかけてくれれば。リィサがルカの手を繋いでくれているように。装備をつけるのを手伝ったり、危ないことをしたら止めるとか、そういうことが必要なんだ」
「姉貴分ってお母さんみたいなところもあるのね」と、リィサが笑った。
レティアもそれを聞いて微笑んでいる。肩までの短いお下げはリィサに編んでもらったらしい。
「リィサは髪を編むのも上手なの」と言っていた。
周りを見ると各パーティ、広場で腰を下ろして話をしている。俺たちもそうしよう。
「俺たち兄貴分が2人と、リィサとレティアの姉貴分が2人、ネオとリオとルカ、全員で7人のプレ討伐隊パーティができたわけだ。じゃあ、朝よりもっと詳しい自己紹介をしようか。
俺はゼクス、14歳。能力発現していない。でも、これから発現するかもしれないから準備はしておくつもりだ。君たちと一緒に鍛錬して、学ぼうと思っている。よろしく!」
全員が「よろしく!」と叫んだ。子供らしい生き生きとした表情に嬉しくなった。
モンドも咳払いをひとつすると、自己紹介を始めた。
「僕はモンド、14歳。鉱物が好きなんだ。魔法を今よりたくさん鉱物に閉じ込める方法や、効果を強くする研究をしたいと思っている。だから能力発現したら、魔物退治の遠征に応募して色々な土地へ行き、討伐の合間に鉱物を探したいと思っている。そんな暇ないかもだし、怒られそうだけど。できたら能力発現なんてしないで研究者になり、ゆっくり研究したいのが本音」
モンドが両頬を手で押さえてひょうきんな表情を見せると、子供たちはドッと笑った。一気に親しみを感じたようだ。
「じゃあ、私たちは歳の順からね。私はリィサで11歳。まだ発現はしていないの。魔法使いになれたらいいなって思ってる。私の家族は……もういないけど」
リィサの表情が曇ったので俺は咄嗟に「家族のことは言わなくてもいいよ」と言った。
「それより何が好きかとか、たとえば香草茶にミルクを入れるか入れないかとか」
「香草茶よりシトロンサイダーが好き」とリィサは元気よく答えた。
「それから自慢は髪の毛で、もっと長くしたいの」
「うん、俺もシトロンサイダーの方が好きだよ。でも子供はミルクを飲むのが義務なんだ」
「義務って」と、リィサとレティアが顔を見合わせて笑った。
「私はレティア、10歳で発現はしていない。私も、なれるのだったら魔法使いがいい。昔の有名な本を読むのが好き。自慢は赤毛とそばかす。好きな本に出てきた主人公と同じだから。香草茶にミルクは入れる派」
「eのつくアンの話は僕も好きだったよ」
モンドが言うとレティアは少し驚き、嬉しそうに小さく頷いた。
「僕たちはネオとリオでどちらも9歳、双子だから当たり前だけど。見分け方は、髪の長さ。どっちがどっちだったか覚えてる?」
にこにこして並ぶ2人。
「もちろん。きのこ頭がネオで、おかっぱ頭がリオ」
俺が言うとネオは「当たり!」と手を上げた。
「君たちはこないだ発現して、魔法が使えるんだよね」
「うん」
「じゃあ、鍛えて高度な魔法が使えるようにしよう。かっこいい魔法使いになりたいだろ?」
「そりゃそう!」
ひとりが返事をするとひとりが頷く。息の合う双子の魔法使いは将来が楽しみだ。
「僕たちはミルク派で香草茶は飲まない。僕もリオも討伐隊ごっこで遊ぶのが好き。ずっとゴムの玩具だったから、こんな本物みたいな盾をもらえてすごく嬉しい!」
「そうか、そのうち鎧や剣も持てるようになるよ」
「楽しみ!」
「君はルカで7歳だったね」
俺が言うと、ルカは頷いた。
「えっと……僕が好きなことは魔物図鑑を見ること。魔物の絵を見て、どんな能力を持っているのか、どんな攻撃をするのか考えるのが好き。魔物同士戦ったらどうなるのかとか」
ルカはモジモジしながら、でも嬉しそうに話した。
「魔物図鑑か。俺は魔法大全を読むのが好きなんだ。魔法に興味はある?」
「ある。でも、魔法大全は僕には難しすぎてわからなかった」
首を傾げ、肩をすくめた。
「それなら今度、魔法大全の面白いところを話して聞かせてあげるよ」
「うん! 僕も魔物図鑑のこと話したい」
世話係が菓子と飲み物を配り始め、子供たちは気がそぞろになった。
モンドが「お菓子をもらいに行こう」と、子供たちを連れて行くと、ルカとふたりになった。
「君は行かないの?」
「ゼクスと話している方がいい」
「そう。……ルカのラストネームはなんていうの?」
「アーハートだよ。ゼクスはクラウドだよね?」
「ああ、覚えていたの?」
「うん。オーリ・クラウドはゼクスの弟なの?」
「そうだよ。もういないけど。君と同じ7歳だった」
しばらく2人で、世話係の周りに子供たちが群がっている様子を見ていた。
笑い声、軽くたしなめる声。話したり、跳ねたり、歌っている子もいる。
「ねえ、ゼクス」
「うん?」
「ゼクスは僕のこと弟だと思っていいから……僕はゼクスのこと兄さんだと思っていいかな。兄貴分じゃなくて本当の」
俺が「いいよ」と言うと、下を向いていたルカが顔を上げた。俺が笑うとルカも笑った。
「今日からルカは俺の弟で、俺はルカの兄さんだ。兄弟の握手をしようか」
「うん」
差し出された手を取り握りしめた。
その上に涙が落ちる。
小さなふっくらした手の感触はオーリと同じだった。




