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ゴーストNo.7:四神<8>安寧

「でね、マコトは鬼に食べられちゃって、バリボリとか音がするの。鬼の口の端からこうツーッと血の筋が垂れてさ。回復魔法は封じられているし、ああ、マコトはもう助からないって思った」


「ミクト、生レバー食いながらそんな話すな!」


「トイロはさ、食べられる時にかなり抵抗していたから助かると思ってたけど、ボリッて」

「俺はそんなに簡単にやられないつーの!」

「擬音やめろ」


「ミクトさんが平気そうで良かったです」

「ユキの食べられ方は最悪だったよ」

「どんな?」

「鬼が頭と足を持って真ん中からガブッと」

「お腹から?」

「そうそう」

「ユキ、鯛焼きの食べ方みたいに聞くな!」


 としおは俺たちの喧騒を他所に追加注文に忙しい。たまり丸と注文を確認し合っている。


「マコトさあ、ちょっと付き合って聞いてくれてもいいじゃん。ホントに怖かったんだよ。仲間が食べられることだけじゃなく、いなくなっちゃうってことがさ。あ……ダメだ思い出す」


「悪い……話すことが必要ならどんどん話して」

「うん。じゃあマコトが血だらけで鬼の口から這い出しそこねるところだけど」

「前言撤回! やめろ、俺は繊細なんだ」

 邪神ミクト再びか。


 あっ、忘れていた。

「ミクト、腕を。齧っていたところ治すわ」


「それならとっくにユキが治してくれたから、マコトは心の傷を」

「くっ……好きなだけグロ話するがいいぜ」


 考えてみれば、今日の戦闘で一番ストレスが大きかったのはミクトだった。足、震えていたもんな。

 最強チームと呼ばれていたって、俺らも人の子。その都度全力で戦ってきたんだ。今日だってそう。あんなに強いゴーストは魔王以来だけどさ。


 たまり丸が肉の皿を持ってやってきた。


「今日はありがとな。たまり丸は俺たちよりこの世界に長くいるから、あの石のことも知っているかなと思ったんだ。お陰で助かった。何か欲しいものはない? お礼がしたいんだけど」


「ボクは今日、皆と一緒にドームの中に入れたことが嬉しかったからそれで十分だよ。こうしてお店にも来てもらったし」


「なんとできた猫だ」

「アハ! ゴーストですけどね」


「あの石は昔『お石さん』と呼ばれていて」

 としおが肉をロースターに乗せながら話し始めた。


「地域の護り神として地元の人たちだけが知っている存在だったんです」


 お石さん、温厚そうな名前なのに怒らせたら怖いタイプだったな。


「石に憑いたゴーストはなぜあれほどエネルギーを溜め込んでいたのでしょう。倒されたては變化する、というのを繰り返しできるほどに」

 ユキがとしおに聞く。


「怒りや恨みというのは増幅しがちなんですよね。何度も思い返すことで膨れ上がってしまう。ゴーストは石に貼られた御札を感じる度に、粗末に扱われた出来事を思い出したのかもしれませんね。石から離れられれば忘れられるのに、そこに執着してしまった……負の感情がいつしか莫大なエネルギーに変わっていったんだと思います。

 慈眼さんが御札をエネルギーの元として先に断つべきと気づかれたのは慧眼でした」


 照れたユキがピーマンをつまみ損ねた。


「課長、俺は? どこがケイガン?」

 自ら褒めを取りに行くスタイルのトイロ。


「獅崎さんは攻撃魔法を使わない縛りの中で、最も多くゴーストのエネルギーを削られたと思います。とらちゃんとの同時祓い斬りは圧巻でしたね。どんな剣も使いこす技量と自ら先鋒を買って出る心意気、ご立派でした」


「まあな!」

 

「よっ! 戦士、食え食え!」

 俺は隣の席のやり取りを真似して、トイロの皿に肉を盛り付けた。


「化身さんも今日はかなりの魔力をお使いになりましたね。ハラハラするシーンもありましたが、最後にこの上ない勇姿を見せていただきました。今日のご活躍は璞市民に永遠に語り継がれるでしょう」


「あはは、恥ずかしいな。全力でやりきって満足だし、チームの役に立てたのは最高に嬉しいです」

 うんうん。蛸様の代わりに撫でてやろう。


「マコトさんもお忙しかったですね。今回も冷静な判断とリーダーシップお見事でした。えっと……色々カッコよかったですよ!」


 としおが少し困っている。どう返事しようかと思っていたら「マコト偉い!」と、トイロが肉をタレにつけて俺の口まで持ってきた。それを食う。続けてミクトも「あーん」と言うので口を開けたら葉っぱを突っ込まれた。ユキはピーマンを。俺は草食動物じゃねえ!


「あひがとよ!」


……

 俺を膝枕してくれている人がいる。

 眼の前にタコヤキが近づいてくる。あーんしろって? 焼き肉で腹いっぱいだからいいよ。

 ……膝がしっとりしているね。吸盤もあるね。蛸だから。

 蛸なのに美女で水龍で。カッコよかったなあ。

 

 と思っていると派手な服を着た男が話し掛けてきた。

「魔法使い」と俺のことを呼ぶ。胡散臭いが転移魔法が使えるらしい。

 大きな水晶に乗っていたなあ。

 

 ハニワはちょっと可哀想なヤツだったな。実際は人を食ってはいなかったが、グロい幻影を見せて怖がらせたせいでとっ捕まり、市役所の下に埋められ封印された。ん? ハニワを地中に追い込んだのは誰なんだろう。


 ゆっくりと回る水晶に催眠術をかけられたようだ。

 意識が沈んでいく。

 

……

 あれから、四神による結界が復活したおかげか、市役所付近でのゴースト騒ぎはほとんどなくなった。


「一ヶ月ぶりのパトロールだね」

「四神の皆さんはどうしていることでしょう」


「天龍でタコヤキ買おうぜ!」

「もうちょっと後でな」


 商店街の入口に、グヮリロの立体人形がつくられていた。


「何だこれ! うははは!」

 実物より小さい、人間の大人ぐらいの大きさの造形物。背景にたくさんのシイタケが描かれている。


「ここに立って一緒に写真を撮るみたいだよ。何か書いてある、ユキ読んで」

「……ようこそ璞商店街へ。好きなものはシイタケ。璞商店街を救ったグヮリロです。よろしくね」


「好きなものは毒草だろ。色即是空はナメクジゴーストに負けのか!」

「いや、過去に勝ってる」

「そうだった」


「商店街で俺たちはあまり役に立たなかったからな。特に俺はシイタケを増やしただけだった」

「落ち込むなマコト。色々カッコよかったぜ」

「励ますな! 落ち込んではいない」



 たこやき天龍の看板には蛸が戻っている。龍子さんはここで商店街の熱気や浮遊ゴーストらのエネルギーを取り込んで、また元気に出歩くんだろう。

 手を振ったが看板に変化はない。でも俺たちに気づいているような気がした。


「この間、ソロで出動した時に『とら家』に寄ったんだ。そしたら、とらちゃんが店にいるのが見えてさ。行列が出来ていて、繁盛しているみたいだった」


「トイロ、話しかけなかったの?」

「別に話すこともないし」


「僕が『とら家』の前を通った時には、看板に鯛焼きがあったけど。トイロのこと待ってたりしてね」

 ミクトがトイロをからかう。


「そ……そんなことはないと思う」

 トイロ、そこは「龍子さんもミクトを待ってる」って切り返すんだ。


「私はちょっと釣具店に行ってきます」

 ユキが『釣(よし)』に入っていった。


「ユキは先週の休日に玄太さんと出掛けて行ったよな。さては釣りを始めるつもりだな」

「釣りって面白いのかな」

「さあ。腹が減ったな、昼メシはコーチャンとこ行こうか」



 僥倖通りに出た。並んでいる街路樹、あの中の一本にコーチャンが止っていたな。

『とり鍋朱瑠(シュール)』の看板にコーチャンは今いるのだろうか。


 ……いた!


 コーチャン、首に魔石のペンダントをかけている。俺のだ。気に入ったのならいいけどさ。


「おーい! コーチャン、来たよ」

「魔石、似合ってるぜ!」


 コーチャンの「コッ」という返事が聞こえたような気がした。




四神の話はこれで終了です

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